目を閉じた死体を見下ろす背中は不吉だった。
「メル」
振り返らない背中が不安だった。
「なんで黙ってるの、メル…!」
イッショニイヨウヨ、それがどんな意味だって。
アイシテイル、ずっとずっと待っていた。待っていた待っていた待っていた、あなたと一緒にいたかった!
コロソウ、復讐しよう?!私たちを引き裂いた世界に、全部に、思い知らせよう?!
「メル、『愛してる』!!」
ワタシと一緒にいるのが正しくて、あなたの幸せなんだと、信じて疑わない。
だってそれが真実なんだから。だってそれが本当なんだから。
あなたと同じ永遠を、闇の中でイキテいく。
立ち尽くして叫んでも、彼があちらの岸から帰ってこない。
違うわ、川なんて、そう、ワタシ達を隔てるものなんて、ない。

そうだよね?

無言で振り返った彼は、うつ向いたまま私を抱き上げた。
「メル」
「エリーゼ」
優しく呼ぶ声はいつものようにワタシを包むのに、どうしてこんなに怖くてたまらないの。
いいえ。

エリーゼは首を振る。

いいえ!
間違ってないわ、なにも、怖いことなんて、ない!!
「エリーゼ、もう、終わりにしよう。もう、いいんだ」
「はぁ?!なに言っちゃってんの?!メル、あんな女の言うこと気にしてるわけ?!」
体がふわりと宙にうかぶ。
彼と離れていく。胸が、腕が、その顔が、離れて、触れられぬほど離れて、違うわ、違う。ワタシは間違ってない。これからもずっと、一緒にいるのに!!
「メル――!!」
「エリーゼ。還らなくちゃ、僕らも。光に、摂理に、」
「違うわ、ずっと一緒にいるの!楽しいわ、絶対楽しいんだから、シアワセなんだから!」
どんなに叫んでも、彼の顔に、あの皮肉げな笑みが帰ってこない。
喚くワタシの口に、メルは触れるだけのキスをして、手を離し、た。

嗚、呼!

くるくる廻る視界。ただ最期まで彼を映していたかった。
ただ、そこにあった表情にエリーゼは衝撃をうける。

そんな顔も、出来たのね。

胸を突き上げる痛みを感じた。
裂くようなそれに、涙を流す機能は彼女にはない。
乾いた眼球に、ただずっと、ずっと彼だけを――最後の一瞬で、エリーゼは緩やかに目蓋を閉じた。
わかってしまったからだった。

嗚呼、もしもあなたがそんな悲しそうに、愛しそうに笑わなければ、ワタシが正しいと信じていられたのに。



「さようなら」



もしもあなたが笑わなければ








「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -