「何を驚く事がある?」
スコルピオスは嘲った。
「私は王座を手にするために。お前は"王"への復讐の為に。手段の為に、お互いに利用しあっただけのことだろう」
ざわざわと木立が揺れている。
ごう、と、耳の中で風が渦巻いたが、耳元の囁きははっきりと脳に届いた。
王に矢を射かけた直後、まだ弓を握りしめたままの青年の、その背に死神のように寄り添いながら男は低く笑っている。
「そうだな」
オリオンは短刀で突きつけられていた剣先を弾いて、素早く間合いを取った。
向かい合ってなお、男は余裕を失わないようだった。
「アンタが、黒幕かい、スコルピオス」
「さァ、な」
冷え冷えとした顔だ。
オリオンは躊躇わない。
たとえ相手がかつて笑いあった人間だとしても。酒を酌み交わした人間だとしても。仮初めにも、同胞だった人間だとしても。
お互いに利用していた。それだけのこと。
あちらは剣、こちらは短刀。いささか分が悪いが、はたして、と、考えるオリオンの視界に、震える銀色が映った。
その正体を見て、呆れたように、笑った。
「ああ俺は愚かだよスコルピオス!」
「今更気付こうが、遅いなァ、オリオンよ」
言うが早いか彼はアッというまに間合いをつめて、返り血でまた緋くなる。
地面に崩れた体は痛みを伝えるだけの荷物になって、熱いような妙に冷たいような。
ただ僅に残った頬の感覚と歪んだ視界とが、降ってきた水滴と男の戸惑った様子をオリオンに教えた。
そう、体はこれでもかと知らしめる。

(ああスコルピオス、俺達は、なんと途方もなく馬鹿なんだろう)

ぐい、と、自分を引く力が強くなったのを感じながら、オリオンは思う。
強く胸を焼くものを口に出そうにも、込み上げる血液が喉を塞いでいたから、声は、自身の体内で反響するばかりだ。
ただそれも、だんだんと吸い込まれていく。

(なぁ、スコルピオス、聞こえやしないだろう。でも、俺達は確かに、救いようのない馬鹿だったんだ。なんたって、)

闇に落ちる脳内で、くっきりと、悼みが駆け抜け、落ちていった。

(体が教えてくれるまで、愛したことにも気づかなかっ、た)

そうしてついにすべてが閉じて、


ふつりと、切れた。




救えなくても、愛だった









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