早朝。
レナはハッとして目が覚めた。
広くはないアパート。
花柄のカーテンは二人で選んで、つい最近買ったものだ。
そこから差し込み始めた日が、部屋の空気を白く切り取っている。

隣で眠るカティアの、額にかかる髪をそっとよけると、穏やかな寝顔があった。
今さっきまで見ていた夢を思い出してレナの指先が震えた。

「…カティア、変な夢を見たわ」

掠れる声でささやく。

カティアが私の手を引いている。
二人は着たこともないような古風なワンピースを着て、暗い森を駆けていた。
夢の中の自分は、このまま二人きりでどこまでも、どこまでも行ってしまいたいと願っている。
正確には、「どこまでも行ってしまいたいのに」、と、心が叫んでいた。逆接。
切なくてたまらなかった。
背後に感じる黒い影の気配。冷たくなっていくカティアの手。
思い返してみれば支離滅裂で、よくわからない内容だけれど、ただ強い感情が胸に込み上げて、それが夢から覚めた今なおレナを締め付けている。

「カティア」


――カティアは会社で知り合った同期の女の子だった。
同期と言ったって部署も違って、普段滅多に会うこともないような関係で、よくここまで仲良くなれたな、と、不思議に思ったこともある。
けど、カティアに出会えてよかったなぁ、なんて暢気に自分の運に感謝して終わりだった。
ただ、もし、今日見た夢が前世なんてものだったりしたなら。
カティアと私は、前世から繋がっていたとしたら。
なんて。
無意味な夢想だ。
カティアはあのあと申し訳なさそうに『ごめんなさい、人違いで、』と言った。
偶然以外の意味がそこになかったことを、私はよく知っている。
(それでも何故か、首をかしげる私に一瞬見せた、彼女の表情が忘れられないのだけど)

「カティ、ア…」



起こすつもりではなかったけど、彼女は小さく唸って薄目を開けた。
毛布からするりと腕が伸びて、私の頬を撫でる。

「どうしたの、レナ」

穏やかな声で、やさしく、やさしく彼女は言う。
何も言えずにいると、カティアは不思議そうに続けた。

「泣いてるの?」



戸惑ったように、レナの濡れた目元を拭うカティア。
その手を握りしめて、レナは目を閉じた。
心配そうに体を起こし、抱きしめて額にキスするカティアにされるがままになりながら、レナは「あたたかいよね」と呟いた。
「だってそりゃぁ、さっきまで布団の中にいたんだもの…」
変な子ね、と耳元で笑う声に、レナも小さく笑う。
外から世界が聞こえる。
鳥の、間の抜けたような声だとか、車の走る音だとか。
日常が満ちるように押し寄せるにつれて、レナの中で夢の感覚は薄れていった。

ただ、深く、深く、奥底から溢れる感情だけが、消えることなくレナを満たしている。












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