イド男=メル前提の突発的文章
※一部グロテスクな表現がありますので、苦手な方はリターンでお願いします。







夢を見る。
境界も危うい夢を。


薄暗い回廊の向こう側から、コツコツと靴音がする。
柔らかそうな金髪を高く結い上げた少女が隣を歩いていて、その指先を絡め、繋いでいる。
ひんやりと冷たいけれど、やわらかな感触だった。
コツコツコツ。
しばらく歩いたところで、不意に指がほどけた。
少女は歩いていってしまう。

待って。

走る。
走る。
息を大きく吸い込むと、淀んだ水の匂いが肺に流れ込んできた。
手足は濡れそぼったかのように重い。

待って。

迎えにいくから。
必ず、必ず、また君に、

少女が立ち止まる。
その姿はいつの間にか大人び、美しい娘に成長していた。

ああ、やっと手が届く。

伸ばした腕に、するりと絡みついたのは冷たくなめらかな、なにか。
青白く硬質のそれは、よく見れば華奢な腕だった。

ダメヨ。

細い指先が、優美な曲線で腕をなぞっていく。

ダメヨ、ダッテ、アナタハ、モウ、

ぐずりと崩れた己の皮膚を見て、悲鳴を飲み込む。
突如、喉まで流れ込む重い水の感覚。
目の前が歪み、彼女の顔が、見え、ない。


ああそうか、眼球はもう随分前に溶けてしまったんだっけ。




「ドウシタノ?」

円らな瞳がこちらを覗き込んでいた。
辺りを見渡せば、すっかり見慣れてしまった墓標と木立。
不思議そうに見上げてくる頭を撫でてやりながら、曖昧に笑う。
ひどい気分だった。

男は確かめるように自分の腕にふれた。
それはたしかな質感を持っていたけれど、彼には分かっている。
自分の体が、どうなってしまったのか。

「なんでもないさ、エリーゼ」

くすぐったそうに笑う少女に男も少し笑って、目を伏せる。
光の中に立つ彼女の姿を描いた。

――エリザベト

焦がれる輪郭はいつだってきれいなままで。

「君を、迎えにいきたかった」

囁くような声量のそれは、けれどたしかに慟哭で。
少女が悲しげに男の肩に顔を埋める。

「ナカナイデ」

男は黙って彼女を抱きしめた。
人ではあり得ない、なめらかな肌。
それでもどうしたって、その面立ちを、髪の色を、見てしまったら想わずにはいられないのだ。
彼女を。

――たとえどんなに近くにいても。

男は喘ぐように息を吐いた。
この暗い井戸の中で、腐り落ちた指。
虫の巣食う内臓。

――穢れてしまった醜い体では、もう二度と、君にふれることは叶わないのだ。





失われた指先













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