「ないものねだりね」
ひどく喧嘩した後に、彼女はぽつりと呟いた。
「なにが」
眉を潜めて返す少年に、無表情に少女は言う。
「やさしいあなたが欲しい、なんて」
沈黙。
「変化を、」
少女は虚ろな目で言う。
「変化を望んでしまうのは、あなた自体を愛していないからなの?私があなたではなくて、私にとって都合のいい誰かを愛しているからなの?」
「意味がわからない」
「わたしは、」
交わった視線、その先の、途方にくれたような、弱りきった瞳に、少年は背筋が粟立った。
「あなたを愛していないの?」
「…キミらしくなく弱気じゃないか」
平静を装って揶揄するも、彼女はうっすらと笑っただけだった。
「私はいつだって弱いよ。滞らないよう、流れていただけで」
滞らないよう流れていく、その無意味さと、それを続ける彼女の強さが、少年は嫌いだった。
けれど、いざ彼女がそれを失いかけた時、彼の胸に訪れたのは歓喜ではなくむしろ、
(恐、怖)
「…いくらでも、求めたらいい」
こちらを見返す虚ろな瞳に負けないよう、少年は言う。
「いくら君がそれを求めても僕は変わらないし、いくらあがこうと世界は変わらない。だから、安心して無駄な努力を続けなよ。…それが、君だろう」
貶す言葉とは裏腹に、響きは懇願のようだった。
目の前にいるもの。
少年には、それが少女ではなく彼女の皮を被った見知らぬなにかだとしか思えない。
微かに震える少年の喉を見つめ、少女はぽつりと呟いた。
「それでもあなたは、その無駄を愛と呼ばないのね」