スコルピオスの一日はいつも通りだった。
彼いわく「愚弟」のレオンティウスに絡まれたことも含めて。

***

屋上でタバコをふかしながらスコルピオスは舌打ちした。

「なぜ私が花見になぞいかねばならんのだ…!」

普通に花見に誘われたなら、まぁ考えてやらんでもなかった。
スコルピオスだって桜は好きだ。
生徒と職員の交流をはかるという目的で生徒会が企画した、学園全体での桜祭り。
愚弟にしては悪くない。
だがしかし。

「おそろいの割烹着で豚汁係だと…?笑わせるなッ!」

叫び声に驚いてハトが数羽飛んでいった。
スコルピオスは少しすっきりしたような顔でため息をついている。
愚弟ことレオンティウスがにこやかに職員室へやってきたのは放課後直ぐのことだった。
桜祭りのポスターを片手に、奴は企画の概要を説明し、「つきましては、」と続けた。
『つきましては、兄上に私と一緒に豚汁の配膳係をしていただきたくお願いにまいりました!』
おそろいの割烹着も用意しました、と、うれしげに報告するその顔には、断られるのではないかという懸念は全くなかった。
腹立たしい。
しかもカストルがレオンティウスの肩を持って、熱心に言い募ってくるのだからたまらない。
アビスだのノアだのの他の教員は楽しそうだと言って笑うばかりである。
苛立ちに任せてスコルピオスは指にはさんだタバコを投げ捨てた。
火を消すために持ち上げた足はそのままコンクリートだけを擦ることとなった。
不審に思ったスコルピオスが足元を見渡すと、そこに吸い殻はひとつもなく、ただ灰色のコンクリートがあるばかり。

「…忘れモノはありませんか」

急に聞こえた声に振り返ると首筋に熱。

「ッ、なにをする!」
「忘れモノです、先生」

微笑む少女は金髪碧眼、その手にはまだくすぶる吸い殻。
首筋に感じた熱はそれによるものだと考えられる。
火傷したのであろう箇所を押さえ、スコルピオスは怒声をあげようとした。
が、未遂に終わった。
何故なら少女が遮るように校則をそらんじ始めたからである。

「SHK学園生徒心得第4項目、学園は美しく清潔に保つべし。美化委員はこれを破るものにペナルティを与えるべく存在します。その権限は学園に属するものすべて――ニワトリから理事長までのすべてに及びます。よって、」

反論の隙を与えずにロストは宣告した。

「スコルピオス先生にはグラウンド横のトイレ掃除をしていただきます」

土足で汚されたタイル一枚一枚が白くなるまでは、決して逃がさない。

***

部活後にオリオンは、ピカピカに磨きあげられたトイレで倒れ込むスコルピオスを発見することとなる。
赤くなった首筋に、「スコピーってばキスマークなんて大胆!」と叫んだところ、拳骨が返ってきたという。
「男は拳で愛を語るもんだよな」と、親友のエレフに語ったそうだから、愛の盲目さがいかばかりか知れようというものだった。









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