ローランサン少年の朝は、いつもと変わらない目覚めだった。
そう、ただひとつ、星占いで最下位だったことを除けば。
***
「暇だ」
缶ジュースを片手に、ローランサンは空を見上げた。
時刻は昼休み。
校舎裏の木の根本は、人目につきにくい上にそこそこ日当たりがよく、時間を潰すにはもってこいの場所だった。
しかし暇でしかたがない。
昼食はもう食べてしまったのに。
「ローランサン!」
声がした方に顔を向けると、イヴェールが呆れた顔をして立っていた。
「ようイヴェール。保健委員会のミーティングは終わったのか」
「さっきな。てかお前こんなとこにいていいのか?さっき体育委員も呼び出しくらってたぞ」
「げ。今いくわ」
そういえばさっきの体育でなんか言われたな。
ローランサンはちょっと眉をしかめて立ち上がった。
アンラッキーだな、と呟くと、イヴェールが肩をすくめた。
そしてそのまま手に持っていた缶を放り投げた。
カン、という音を背に、ローランサンはイヴェールに歩み寄る。
「……か、」
「あ?イヴェールなんか言ったか?」
「いや?」
否定するイヴェールに、ローランサンは首をかしげる。
たしかになにか聞こえたのだが。
不思議がりつつもそのまま去ろうとするローランサンの腕を、誰かが掴んだ。
「忘れモノはありませんか」
華奢な造りににあわず、鬱血しそうなほどの力で握り締めてくる、手。
その持ち主は、微笑みを浮かべた金髪の少女。
「だれ、だ、アンタ」
見覚えのない顔に思わず問うと、イヴェールが青ざめて叫んだ。
「おま、知らないのかよ!鬼の美化委員、」
「ロスト、だよ、ローランサンくん」
少女は笑みを深くして、そっと左手を差し出した。
その手には先程ローランサンが投げ捨てた缶が握られている。
そしてそのままそれを、スチール缶のそれを、
握り潰した。
「「………」」
イヴェールは静かに後退り、ローランサンは頬をひきつらせた。
「SHK学園生徒心得第4項目、学園は美しく清潔に保つべし。美化委員はこれを破るものにペナルティを与えるべく存在します」
「ペナル、ティ?」
「難しいことじゃないよ。先生の手伝いや掃除を、ね。でも――」
ロストは耳元でそっと囁いた。
「終わるまで、逃がさない」
***
少女に引きずられていったローランサンのその後を、語る者はいない。
親友のイヴェールは辛くも難を逃れたためその後を知らず、また、当人はぐったりとして口を開こうとしないからだ。
ただ数人の生徒によると、怪しげな物質に満ち、魔界と恐れられていた理科準備室――実際はノア教員の物置に等しかった――が、キチンと整頓され、窓から日の光が差すようになっていた、とのことであった。
それ以来、ローランサンは一度もゴミを投げ捨てていない。