埃が光を反射して舞う。
きらきら、ふわふわ、とどまることのない変化。
目で追っていたのに、もう分からなくなってしまった。
不規則な動き。
ただひとつ確かなのは、埃たちは皆、いづれ床に落ちるということ。

ねぇ、クロニカ、君から見た世界はこんな感じなのかい?

だとしたら悲しいな、と、ルキアは考えて目を伏せた。
人ならざる赤い瞳だとか、触れたときに伝わらない温度だとか、彼女と自分の違いはあまりに多い。
すべてを知り、果てしない時を見つめる彼女の目には、ボクはどう映っているのだろう。
ただ一瞬、輝いて消えるだけの、塵?

「…クロニカ」

彼女を神だと誰かが言った。
神。
きっとそれは、畏れるべき存在で。
でも、彼女を見るたびに込み上げるこの感情は、悲しみに似ていた。
諦めたように凪いだ口元が、綻ぶことがあるのをボクは知っている。
ちょっと見開かれた目が、かわいいことも知っている。
だから、彼女にはもっと、笑ってほしいと思う。

「ルキア、みんな準備は出来てるよ」

自分の横を通り過ぎた瞬間に、仲間の一人が囁いた。
その声に、現実に引き戻される。

――今日、ボクらは教団を捨てる。

最後に会った彼女を思い出す。
凪いだ表情のまま背を向けて、ただひとこと。
それもまた運命、と。
彼女はすべてを知っているから。

…ボクの行動は彼女の笑顔を消しただろう。
教団への反逆は、彼女を捨てるも同じなのだから。
もう、彼女になにも求める権利はない。
それでも。

ルキアは静かに目を閉じた。
まぶたの裏に描いた彼女は楽しげに微笑んでいる。

さようなら、さようなら。
ボクは今日、君を捨てる。
もう二度と、ボクが君の笑顔を見ることは叶わないだろう。

それでも君に、笑って欲しいと思う。

  








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