枯れない薔薇でいたいのだと、彼女は言った。
ルージュの似合う女だった。

「枯れない薔薇はもはや人工の、造花に他ならないのでは?」
「失礼ね、私はただ愛されていたいだけ」

挑むような視線は、いっそ禍々しいほどの力を持って他人を惹き付けたが、賢者は穏やかに微笑んだだけだった。

「しかし貴女の行為は、求愛と言うにはいささか過激すぎるようだ」

女はなお笑っている。

「臆病なのね、サヴァン」

挑発するように伸ばされた手を、彼が取ることはない。
彼は何も語らぬ石より魅力的な女性を好んだが、愚かしい真似はなにより好まなかったので。

「本当に失礼なヒト」

唇を吊り上げて、女は笑った。
華やかな笑みだ。
そして、言う。

「枯れた薔薇はただのゴミよ」

先程賢者は、枯れない薔薇を造花と評したが、目の前で咲き誇る薔薇が造花でないことは彼のよく知るところであった。

もっとまがまがしい。

茎や葉に通うのは水ではなく黒々とした生き血。
命を奪って咲き続ける幻想。

「愛してほしいの。私を愛してほしい。だから私はゴミになるわけにはいかないわ」
 
夢見るように囁く彼女に、賢者は曖昧に微笑んだ。
彼は知っている。
彼女がこの手段を選んだ時点で、彼女自身が愛されることはありえないということを。
けれどそれは告げない。
彼女の無垢な願いの前に、無粋なロジックがなんの意味をなすと?

「私を愛して」


薔薇は血を吸い上げて咲き続ける。
ただ、白馬の王子を待ちわびて。
けれども彼女は不滅の薔薇。
血を吸い上げて咲き続ける幻想である以上、それは不毛な偽りにすぎない。
だからいつだって、彼女のもとへ訪れるのは偽りの……

白馬に乗らざる王子、だけなのだ。







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