「骸!お誕生日おめで、ぎゃあ!」

すっとんきょうな叫び声が聞こえたので千種はのっそり立ち上がって、ドアから首を突き出した。
仁王立ちで高笑いする骸の前で、沢田綱吉が片足で跳ねている。
奇ッ怪な。
黙ってメガネを押し上げる。

「あぁっ!テメーなにしにきたびょん!」
「…犬、うるさい」

別のドアから首を突き出し叫んだ犬にため息をついたら、「なんだとメガネ!」と返事があった。
めんどい。
沢田の服装と床に落ちた紙袋とで、大体の事情は把握できた。

なにせ今日は6月9日だったので。

「お祝いに来たのに何で足踏まれんのー!?」

沢田が憤慨した。ただし涙目で。
対する骸はにこやかだ。虫の居所が悪いのが、一目でわかる笑顔だった。

「うるさいですよ。沢田の分際でめかしこんでコンバースなんかはいちゃって!君には運動靴がお似合いですよ、マジックテープの」
「ひでぇ!」

めかしこんで、と骸は言ったが、もちろん沢田は普段着だ。
ただ以前よりちょっとばかり垢抜けていて、そんな彼が背筋を伸ばしているとなんだか知らない人のようだった。

「あ、こけたびょん」

犬がつぶやく。
「ふぎゃっ」だか「ぶえっ」だかの間抜けな声をあげて、沢田が床にへばりついたところだった。
足払いでもかけられたのだろう。

「うかれちゃってまあ」

鼻を鳴らして骸は言った。
大学はそんなに楽しいですか、と彼は続けるつもりだったんだろう。


六道骸と沢田綱吉は仲良くおんなじ大学に入学した。
ただし骸は法学部、綱吉は商学部。
学部が違えばもう別の学校といったって過言ではないから、二人で一緒にいる時間なんてない。
しかも、かといってまったく違う学校ではなかったのがいけなかった。
すれ違ったり遠目に見かけたりする相手は、自分の知らない人間と楽しそうにしているのだ。
面白くない。
自然、目付きがきつくなるし、顔を見れば足が出る。


そんな事情をうっすらと柿本は知っていたので、まあ、あまり驚かなかった。
イライラしている骸を、沢田はきょとんとして見上げ、ついで、情けない笑いを浮かべた。

「あぁうん、だってお前の誕生日だからさぁ」
「あ」

柿本から、思わず小さな声が漏れた。
沢田の言葉で空気が一変、骸があんまりうれしそうだったので。

「……骸さんめっちゃ笑顔なんらけど」
「見ればわかるよ」

今度は機嫌がいい方の笑顔だね。

「なに笑ってるびょん」
「そういう犬もうれしそうだけど」
「ちっげぇよ、メガネ壊れてんじゃねーの」

柿本と城島の見る先では、ちょうど骸が沢田を踏みつけたところだった。
沢田は「理不尽!」と騒いでいるけれど、落ちた紙袋を拾い上げる骸の指先がとてもやさしかったこと、目元がやわらかかったことに、彼はきっと気づいているんだろう。







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