企画 | ナノ


すすぎあらいが声を掛けるより早く、昼行灯は身を翻し、投げ込まれた黒い影を蹴り飛ばした。

間髪入れず、短い悲鳴が爆発音に掻き消される。――手榴弾だ。


「……本当に、手が込んでいるな」


舌打ちしながら鉄蝋を取り出し、次いで飛来するクロスボウの矢を弾き落す。

此方の襲撃に備え、キヅネが呼び寄せたのだろう。入口を押さえる武装した男達を前に、昼行灯とすすぎあらいは低く息を吐く。


「来やがったな、モノツキ」

「あの男の言った通りだ」

「……ツキゴロシか」


ラグナロクを経てモノツキは人としての権利を取り戻したが、依然、彼等を非人間と見做し排他せんとする動きはある。

寧ろ、一層過激さを増す組織も現れ、目下新たな社会問題となっている。


「お前らみたいなクズが堂々と表歩きやがって。てめぇらの人権なんてなぁ、誰も認めちゃいねぇんだよ!!」

「てめぇらの首もぎとって、アマガハラ・ヒナミに送り付けてやる!!次にこうなるのはてめぇだってなぁ!!」


更にタチの悪いことに、一部のツキゴロシにはヒナミを眼の上のタンコブ視している者達がスポンサーで付くようになっている。お陰で装備も組織としての完成度もこれまでの比にならないと来ている。

厄介な相手を呼んでくれたものだと落した肩をほぐすように軽く上下させながら、すすぎあらいはのったりとした足取りで昼行灯の半歩前へ歩み出る。


「……ふーっ。人の眼があるんだから加減しろって言われてるけど、此処なら別にいいよね、社長」

「えぇ。此処は未だ、闇の中にありますので」

「よし」

「なぁにゴチャゴチャ言ってんだコラァア!!」


この狭い室内では、物干し竿をまともに振ることが出来ないすすぎあらいはウドの大木だ。それを見越して室内戦を仕掛けたツキゴロシ達にとって、すすぎあらいは既に首を獲ったも同然であった。

だから、昼行灯を追跡に向かわせるように前に出て来た彼を至極鬱陶しそうな眼で見据えながら、先頭の男が大振りのナイフを構え――次の瞬間、そのナイフを胸に突き立てられた。


「…………ァ」


一瞬のことで、何が起きたのかツキゴロシ達には理解出来なかった。


何時、すすぎあらいは距離を詰めた。手に持っていた物干し竿はどうした。どうやってナイフを奪い取った。

混乱によって漂白化された頭では、まともなに思考出来ない。

ほんの数秒のことで、さっきまでの威勢を嘘のように失ったツキゴロシ達の前で、すすぎあらいはゴウンゴウンと嗤うように頭を鳴らす。


「アマガハラ・ヒナミに何かしようって奴はさ、出来るだけ洗濯しておきたいんだよね」


持つべきものは、警察の知り合いだ。より激化する戦闘に備え、逮捕術を学んだお陰で、ナイフ取りも上手くなった。


これまでのすすぎあらいは、誰かを守る為の戦闘をしなかった。眼に映る全てを力任せに叩き潰す。求められたのはただそれだけで、敵も味方も自分自身ですらも顧みようとしなかった彼にとっても、それで十分だった。


だが、今の彼には、それだけでは足りなかった。


彼女が創ったこの世界で、彼女が願う世界を作るには、ただ殺すだけでは駄目なのだ。
だから彼は、人としての戦い方を身に着けた。未だ異形のままである自分達を人間にしようと命を賭した彼女の為に。


「あの人が居なくなると、色々ゴタゴタするんだ。そうなると、あの子が困るんだよね」


普段は制圧までに留めておくが、此処は裏町だ。何をしようと何が起ころうと、全て闇に葬られる。

此処はそういう場所であるから、そちらも堂々と乗り込んで来たのだのだろうと、すすぎあらいはドラム洗濯槽の奥底で眼を光らせて嗤う。


「だから、全員此処で殺すね。アンタらも人のこと殺しに来てるんだから、殺されても恨まないでね」

「ひ――ッ」

「ば……化け物がぁ!!」


そう、自分はどうしたってそういうものだ。

例え人としての権利を取り戻そうと、この手はとうに血に塗れ、呪いのように濯げぬ穢れを身に纏い続けている。


だからこそ、彼女の為にそう在り続けることを選んだ。

彼女がそれを望まずとも、彼女の為にそうしたい。嗚呼、なんとも人間らしい心だろうと、すすぎあらいは牙を剥く。


「ぎ……ぎぃあああああああ!!」

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