FREAK OUT | ナノ


「……これで何件めだ」

「四件め、です」


キープアウトのテープと、ブルーシートを越えた先。鎖され、隔離された路地の惨状を前に、慈島は顔を顰めた。

太陽の光も届かず、空の青さを孕んだ影に浸ったビルの谷間。其処に、本来有り得ない、有るべきではないものが、一つ。赤黒く、濡れた肉の輝きを放っている。

それは人間の、それも、若い女性の死体であった。


「今回もまた、見事にバラバラですねぇ。パーツ、ちゃんと揃ってます?」

「こないだのは野良犬が持ってっちまってたからなぁ。取り敢えず、両手両足は揃ってんな」

「よせ、お前ら」


いっそ感心したように遺体を眺める賛夏と嵐垣を窘め、慈島は改めて、現状を目に焼き付けた。


赤く染まったビルとビルの間。そこに、誕生日会などで壁に掛けられる折り紙の輪飾りのように、腸が飾り付けられている。

その下には、空っぽの胴体に、切断された腕と脚が生け花のように突き立てられ――綺麗に上を向けて揃えられた両手の上には、頭部が乗せられている。

見事に取り出された内臓は、その横に綺麗に並べられ、標本を見ているようだ。


あまりに凄惨で、目の前の肉塊が人間であったことさえ、信じ難い。幾つもの惨劇を見て来た慈島達でさえも、狂気の沙汰としか言いようのない光景。

一体、何が彼女を――いや、彼女達をこうしてしまったというのか。

眉を顰める慈島の横で、芥花もまた、この惨事に酷く心を疲弊させているようだった。


「頻発する連続女性惨殺事件……。確かにこれは、普通じゃない。俺らのとこに回ってくるのも、納得です」


最初に事が起きたのは、一週間前。今回の現場と似たような路地で、女性がバラバラ遺体で発見された。
第二の事件は、それから僅か三日後。それから殆ど間を空けず――寧ろスパンを短くして、立て続けに女性が襲われ、これで四件め。

遺体の状態があまりに惨たらしい為、警察はこれを、フリークスの仕業ではないかと判断し、慈島事務所に捜査協力を要請した。

誰だって、これを人間がやったなどとは、思いたくもない。こんな、人の命を、体を弄ぶようなこと。同じ人間がやっただなんて。

そういう気持ちがあってのことなのだろうが、状況を鑑みるに、今回の一件がフリークスの仕業だと、慈島達には思えなかった。


「どうです、シローさん」

「……今回も、フリークスの匂いはしない」

「じゃあ、やっぱり」

「あぁ」


万が一、と考え、何れも現場に足を運んできた慈島だが、どの現場でもフリークスの痕跡を見つけることは出来なかった。

追跡を免れるよう、何かしらの工夫をしているのか。否、そうではない。


そも、この事件は、遺体の状態から見て、どれもフリークスの犯行である可能性が限りなくゼロに等しい。

フリークスは、人間を餌、或いは苗床として襲う。
食事か、繁殖。それ以外の目的――娯楽や、気晴らし、私怨なども、無いことはないだろうが、フリークスが手に掛けた人間をそのままにしていくことなど、皆無だ。
どうせ殺したのならば食っていくか、種を植えていくかしていく。腹が満たされているのなら、持ち帰ることだってある。

だのに、今回の事件は共通して遺体が現場に放置されていて、状態が――妙な言い方だが、小綺麗だった。

発見され、警察によって現場が保持されるまでの間、野良犬やカラスに食い荒らされることはあったが。遺体は凡そまるで、芸術品のように扱われていて、被害者の顔には傷一つ付けられていなかった。


以上の点から導き出される結論は、非常に認め難いが――この一件は、フリークスとは無関係。狂気の犯行に及んだのは、人間と見るのが正解だろう。

慈島は、スーツの内ポケットから取り出した煙草を咥え、火を点けながら、遣り切れなさに満ち満ちた声を零した。


「被害者の状態から、そうではないと思っていた。だが……今回のは、俺らの管轄になるだろう」

「……と、いうことは」


慈島の声に引かれるように、遺体を眺めていた嵐垣と賛夏も、彼の方に視線を向けた。

本件は、フリークスとは無関係。それでも、彼等がこの事件に携わり続け、犯人を追う理由。
必然、一同の脳裏にある言葉が浮かんだ。

慈島は、深く吸い込んだ紫煙を吐き出して、そのワードをなぞる様に、静かに呟いた。


「この一連の殺人事件……犯人は恐らく――」


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