FREAK OUT | ナノ


女は、まんまと逃げ遂せた。

昼夜問わず泣き叫び、煩わしいことこの上ない、昔の男との間にこさえてしまった子供。
あれと、幾らか滞納した家賃やら水道、電気代やらを置いて、新しい男のもとに転がり込んで二ヶ月。ホステスの仕事で稼いだ金を酒や煙草に換え、快楽を貪るような生活を過ごし、女は満足していた。

そろそろあれが見付かる頃合いかもしれない。
だがその時は、あれはフリークスの仕業だとでも言えばいいだろう。

何か起きた時は、取り敢えずフリークスのせいにしておけば、案外それでどうにかなってしまう。

昔、つるんでいた仲間が放火で捕まりかけた時も、フリークスがやったと言って、釈放されたと自慢げに話していたことがあった。
だから、自分もフリークスに脅され、家を追い出されたと言えば、逮捕されることもないのではないかと。そんな楽天的思想を携えて、女は街を悠々と歩いていた。


今日はこれから、客の男と食事の約束がある。
歳を取った小太りの、汗臭い男だが、金は持っている。適当に持ち上げて、搾れるだけ搾ってしまおう。

その金で、新しいブランドバッグでも買おうか。いや、新しい携帯に機種変更するのもいいか。
女は、うっかり落として傷がついた携帯を弄りながら、せっかくだから最新機種にしようかと、皮算用に没頭しながら、夜道を歩いた。


曲がり角。何気なく足を運んだ、人気のない雑居ビルの間。

そこを抜ければ間もなく駅前に繋がるというところで、女の足が止まった。


「…………は?」


目の前に、黒い影が見えたと思ったのも、刹那。
口から信じられないような量の血を吐き出して、女は眼を見開いた。

遅れて、腹部から全身に激痛が迸る。思わず叫ばんと口を開けると、喉から何かが潰れたような音がした。

何か、など考えるまでもなく。潰れたのはまさに、女の喉であった。


「嗚呼、いけませんわ……此処じゃ、人目についてしまうかもしれないのに、わたくしったらぁ……」


ぐべぁと、夥しい血と共に喉から出て来た醜い声を、どこか熱に浮かされたような可憐な声が掻き消した。

女は、一体何が起きたのか、目の前で笑むものが何かなのかさえも分からぬまま、また自分の肉が、押し通された刃物によって潰されていく感覚と共に、ぐらりと落ちていった。


「ステキに着飾ってるものですから……はぁ……ガマン出来ませんでしたわぁ……これから、誰かとデートだったのかしら……。
あぁ、楽しみにしていたのなら、申し訳ないことをしてしまいましたぁ……」


事切れた女の体に、出刃包丁が入れられていく。
それが肉を切り分け、骨を強引に押し砕き、女を解体していく度に、昂揚しきった声が、吐息が、路地に響いて――。


「せめて、待ち人の眼につくよう……綺麗に飾ってさしあげますわ」


やがて、血に塗れた影は、闇に溶け込むように消えた。

後に残るのは、飾りつけられた女の骸と、狂気の静寂だけ。


悲鳴がそれを曝すまで、あと少し。


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