FREAK OUT | ナノ


御尤もでは、ある。フリークスのことを理解する必要性も、彼等の言葉に耳を貸す理由も無いのだ。

疾く息の根を止めるに越したことはない、とはいえ、些か情緒と容赦が無い気がした。
相手はフリークスだ。同情も憐憫も小指の爪先ほど持ち合わてはいないが――と、貫田橋が完全沈黙するパラシティズムの骸を眺める横で、雪待は携帯電話を取り出し、通話を始めた。


「…………俺だ。あぁ、討伐は完了した。相手は増殖型の能力を持った≪蕾≫だった。後始末は本部の奴等に任せて、俺は帰る」


何故こんな所に雪待尋が、と疑問に思っていたが、第一報で相手が≪花≫であると予測された為だったらしい。

パラシティズムが討伐された以上、彼の仕事はこれで終いだ。

本体たるパラシティズムが死んだことで、彼の能力で作られた卵も死滅しただろう。後は人質の救助、怪我人の治療・搬送、ホテル内の後片付け。そういった業務はFREAK OUT本部に任せればいいと、雪待は半ば一方的に通話を終え、携帯電話をコートのポケットに捻じ込んだ。


「さて……」


そう、これで終いだと貫田橋は眼を伏せた。

パラシティズムは死に、侵略区域に連れ去られる筈の人質や、殺傷寄生を受けていた人々は救われる。最後は人の手に委ねる形となったが、何一つ成し遂げられなかった自分には、相応しい結末だと思えた。


(ぼくのゆめは、おにいちゃんみたいなフリークアウトののーりょくしゃになることです)


誰かの憧れになれるような人間には、なれなかった。
誰かの目標になれるような人間には、なれなかった。
誰かの夢を守れる人間にも、なれなかった。


(おおきくなったら、おにーちゃんといっしょにフリークスとたたかって、こまっている人を助けてあげたいです)


違うのだ。違うのだ。

自分が助けようとしたのは、きっと、かつての自分だった。

だから、彼のことを救ってやることが出来なかった。


あの時だけじゃない。最初から、この手は何も掴むことが出来ていなかったのだ。


(おにーちゃんは、ぼくのヒーローです。これからもがんばってください。ぼくものーりょくしゃになれるよう、がんばります)


救われたのは、自分の方だった。

救ってくれたのは、気紛れに差し出した手を掴んでくれた、あの子だった。

自分はそれを取り違えて、”英雄”の真似事をしようとして――それすらも手放した。


その罰を受ける為、FREAK OUTを抜けながら、フリークスと戦う道を選んだ。その癖、少しでも報われようとした。最期が悔いの残らない結果となったことに安堵した。
それが人の手によって齎されたものでありながら、何の杞憂も無く逝けることを喜んだ。


――心底反吐が出る。

本当に自分は、無価値で無意味な人間なのだと、己の脆弱さによって思い知らされる。


残された力を使って歯を食い縛りながら、貫田橋は強く目蓋を閉じた。

こうしている間にも、体は着実に死へと向かっている。眼前へ迫りつつある終わりを前に、彼は祈った。


来世だとか、生まれ変わりだとか。そういうものがあるのなら、どうか、あの子が溢れんばかりの祝福と幸福に包まれて生まれるように、と。

無意味で無価値な生を受け、無意味で無価値な死を遂げる自分には、そんなものは要らないから。だからどうか、自分を救ってくれたあの子が今度こそ救われてくれるようにと、強く願った、その時。


「……氷天下」

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