FREAK OUT | ナノ


巨大な氷塊に押し流されるように、パラシティズムの体が吹き飛ぶ。

壁に叩き付けられた巨体が、ホテルを震わせる。その震動が飛び出た臓器に響いても、貫田橋の頭にその痛みは届かなかった。


「な、にが」


とうに再生を終えていたパラシティズムの眼が、再び潰された。

降り注ぐ無数の氷柱が、パラシティズムの頭部を情け容赦無く撃ち抜いていく。その痛みにもがく脚が氷に覆われ、壁に固定される。


「キ、キィイイイイイア!!」


瞬く間に身動きが取れなくなったパラシティズムが恐怖に引き攣った喉から甲高い悲鳴を上げる。それを不快に感じたのか。鋭利な氷塊がパラシティズムの口を貫き、彼を沈黙させた。


「カ……ぺ」


その強さを、その力を知らない能力者がどれだけいるか。

他者と関わらず、他者に関心を持たず。故に、FREAK OUTに属しながら、能力者の顔や名前を殆ど記憶することの無かった貫田橋ですら、彼のことは認知していた。


氷の超自然系能力を極めた、精鋭の中の精鋭。侵略区域遠征から生還した”帝京最強の男”――。


「ゆ、雪待……尋」

「……≪花≫が現れたと聞いて来たが、ただの増殖型か」


咥内の奥で光る核を確認すべく、男が足を進める。声が不愉快だったのもあるが、核を確めるのも目的だったらしい。話に聞いていたランクと異なることに辟易しつつ、男――雪待は、足元に転がる貫田橋に視線を移した。


「は……≪花≫じゃないの、か……あい、つ」

「……野良能力者か、お前」


まだ息があることに些か感心したような面持ちで、雪待は貫田橋の臟を齧ったまま硬直していたフリークスを蹴り飛ばし、転がった先に手持ちのリボルバーを向けた。

銃声は無い。代わりに、氷塊がフリークスの頭を貫き、床を打つ音が聴こえた。


「限りなく≪花≫には近いが、あれは≪蕾≫だ。お前の臟を齧っていたのは眷属ではなく、あれの一部だ。親の体の一部が独立し、新個体になる無性生殖のようなものだろう。現に、アレに核は無い」

「…………」


言われて見れば、確かにあのフリークス達には核と言えるものが見受けられなかった。
攻撃時に抉り取っているものと思っていたが、頭を踏み砕いたものにも、雪待が適当に押し潰して殺したものにも、核らしきものは視認出来なかった。

生まれたてとは言え、フリークスの割に再生力が乏しかったのも、そういうことだったのかと貫田橋が一人得心していた、その時。


「ワ……タシ、は……≪花≫よ……ッ!」

「!」


脚が千切れるのも厭わず、パラシティズムが力任せに体を壁から引き剥がす。

その顔には、凄まじい赫怒の色が宿っていた。己が≪蕾≫であることを曝け出されたことに憤っている。其処には、自らのランクを偽っていたことが明らかにされたことへの羞恥心は無い。

彼は、自分が≪花≫ではないと、そう言われたことに怒りを露にしているようだった。


「ワタシ、は……咲ける。ワタシは、咲けるのよォ……!!だ、から」


≪花≫でありたい。≪花≫でなければならない。

自分は美しく咲き誇るのだ。実を結ぶことも咲くことも出来ない惨めな草葉には、もう二度と――。


パラシティズムの張り裂けんばかりの叫びは、何処に響くことも無く、押し潰された。


「何を言ってるのか分からん」

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