FREAK OUT | ナノ


「何をしたのですか、貴方」


収穫を終えた肉をオスとメスに分け、更に其処からランク分けをする。親以上の素質を持った子どもは次世代の繁殖用に保全し、そうでない子どもは食肉用に育てる。

エネルギー吸収率を高めるには、ハイブランドの農園を作るに限ると品種改良を重ね、高品質の食肉人間を作る。

実に機械的で、効率的。これぞ知性を有するものの獣性だと、工場職員のように働く眷属達を見ながら、ケムダーは肉の塊を捏ねる。


「なーんもしてねぇよ。そも、俺が二世ちゃんに何かしようってんなら、パパが黙ってないだろ?」

「それはそうですが…………では、貴方は何の為にわざわざ侵略区域に」

「ちょっと唆してやっただけさ。二世ちゃんがバチバチにうちの息子を意識するように」


肥大化した子宮内、他の子ども達に押し潰されて死んでしまった胎児達。これらも尊い命だ。

大事に食ってやらねばなるまいと、肉を適当な大きさに丸めて軽く空気を抜きながら、ケムダーはキムラヌートの問いに答える。


「よく言うだろ?命短し恋せよ乙女って。まぁアレ、若い時間は短ぇぞって意味だけどさ」


平たく成形し、窪みを作って上に卵黄を乗せればタルタルハンバーグの出来上がり。

フリークスの体はサルモネラや腸管出血性大腸菌に脅かされることなく生肉が味わえる。これは化け物の身だから出来る贅沢だなと、ケムダーは良く冷やしておいたビール缶を開けた。


「どうせ長く持たねぇんだ。短い間、蝉みてぇに声上げて励んだ方が幸せだと思うワケよ俺は」

「……では、彼女は」

「このまま戦ってたら、もって一年。下手すりゃもっと早く死ぬだろうな」


お前もどうかとキムラヌートにビールを差し出すと、触手でやんわりと押し返された。

昼間から飲酒する質では無かったか。誰に咎められるでもないのに真面目な――いや、そもそも酒を嗜むクチではなかったか。

この快楽が理解出来ないのはいっそ同情に値するなと勝手に憐みながら、ケムダーは肴のタルタルハンバーグを摘む。


「上層部も次の”英雄”産むまで死なれちゃ困るから、そろそろ引っ込めるだろうけど……あぁ、でも今は体外受精とか代理出産とかあるからな。必要なモンだけもらってポイする可能性もあるか。でもこの国って腹を痛めて産んだ我が子ってのが好きだからなぁ。さて、どうなることやら」

「……貴方の眼には、視えているのでは?」

「結末は、な」


ほんの一瞬蒼く光らせた眼には、彼が望む未来が視えている。


この世界の全てを喰らう獣が宿るのは、きっと彼女の胎の中だと見初めた、あの日と同じ昂揚が、視神経を焼く。

瞬きと共に赤みを帯びた暗がりの色に戻った眼を細め、ケムダーは哂う。蟻の巣に水を注ぐ幼子のように無邪気で底無しの悪性を湛えて。


「けどさぁ、やっぱ過程って大事だと思うぜ、俺は。どうせなら幸せになってもらいたいってのは親心だよなー」


どの口で、とキムラヌートは思わず顔を顰めた。

全て台無しにする前提で、幸せになってもらいたいなど。それが父親の言うことなのか。

本当に元人間なのかと疑いたくなる程の姦悪さに口を挟む気力も失せるとキムラヌートが押し黙る中、ケムダーは血肉が付着した指を舐めながら、彼方を見据える。


「なぁに、天秤は今に傾くさ。俺が指先で突くまでもなく、な」

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