FREAK OUT | ナノ


相手は≪蕾≫の中でも低位のフリークスだった。ただの一撃で終い。一目見て、そう感じた。


「英雄活劇(ヒロイズム)――」


だのに、その一撃が繰り出せなかった。


「愛ちゃん!!」


声が、遠い。視界が霞んで、歪んで、自分が立っている場所さえ分からなくなって。

それでも、此処で倒れてなるものかと踏み込んだ。


強くなったのだ。彼と共に並び立つ為に。

強くなるのだ。もっともっと、今以上に強く、強く――!


「英雄活劇!!」


力任せに押し出した光弾が、フリークスを撃ち抜く。

何だ、ちゃんと出せるんじゃないかと自嘲していると、視界が赤く染まった。


「…………あれ」


血が出ていた。

眼から、鼻から、口から。馬鹿みたいに噴き出した血が伝い落ちていく。


ほんの少し、能力を使っただけなのに。いつもなら、まるでダメージにならない程度なのに。

こんな筈じゃないのだと言い訳しようにも、舌すら上手く回ってくれなくて、泣き出したくなった。


――違うの、慈島さん。


その一言すら口に出来ないまま、愛が倒れ込む。


「愛ちゃん!!愛ちゃん!!」


瞬く間に血の気を失くし、ぐったりと横たわる彼女を抱き上げ、慈島は叫ぶ。


今し方倒した相手の能力か。体調が悪化したのか。

どちらか考えいる時間すら惜しい。今はただ、彼女を医療機関にと走り出そうとした、その時。


「相手が違いますわよ、慈島さん」


腹部を貫く、固く冷たい感覚。

抱きかかえた彼女の体で見えないが、それが何かは理解出来た。


「寿、木」


出刃包丁をより深く押し込まれて尚、膝すら突かずにいる慈島を見据えたまま、永久子は切り揃えた前髪の下で眉を顰める。

邪魔立てするなと慈島が威嚇する獣のように歯を食い縛っても、彼女は包丁を強く握り続ける。


「貴方が喰らうべきは、フリークスでしょう。なのに……なんですの、その顔」


理解出来てないなら見せてやろうと言わんばかりに、永久子は慈島の腹から包丁を引き抜く。


血に塗れたそれを軽く振り払うと、濡れた刃が鏡面のように光る。

其処に映し出された物に、慈島は声を上げることすら出来なかった。


「まるで、化け物そのものですわよ……貴方」

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