FREAK OUT | ナノ


「せっかく帰ってきたのに、傍にいてやらねーのか?」


巡回ルートを粗方周り終えた所で、呆れたような声を投げかけられた。


アクゼリュス来襲後、市内は落ち着きを取り戻している。自分達で事足りる業務程度しか残っていないのだし、今は愛の傍に居てやるべきではと言っても、慈島は頑なに事務所に戻らなかった。


また何か、彼女に対し後ろ暗いものを抱えているのか。

逃げ出すように家を出て、帰るに帰れなくなった子どものように市内を回り続ける慈島に、徳倉は肩を竦めた。


「お前から来いって言ったんだろ?なら、ちゃんと責任取るこった」

「…………」

「それにな、お前が思っている以上に、お前はあの子にとって必要な存在だ。だから、あの子が弱ってる時は傍にいてやれ」


愛が受けた傷は、独りで抱えていられるものではない。だからこそ慈島も、彼女を独りにさせまいとした。だが、自分は彼女に寄り添えるものでは無かったと思い知らされた。


息を潜めていた獣性が、よりによって彼女に牙を剥いた。何よりも誰よりも大切にしたいと願った筈の彼女に、浅ましい欲望を抱いてしまった。


――いつかきっと、あの夢は正夢になる。


そんな気がしてならないことが、慈島は恐ろしかった。


醜い”怪物”が人に寄り添うことなど、叶わない。化け物の本能は見境なく、全てを喰い荒らす。

肺腑を抉られるように、そう知らしめられて尚、どうして彼女の傍にいられよう。


「…………それが、俺以外の誰かならよかった」

「それ、嬢の前で絶対言うなよ」


慈島は常に自分を卑下しながら生きている男だ。半人半フリークスという出自から、彼は自分の存在が何よりも無価値であると考えている。
それは誰かがそんなことはないと否定した程度で癒える傷ではない。彼を苛んでいるのは、その身に流れる血と、それを忌避するもの全てだからだ。

フリークスは人々にとって畏怖と嫌忌の対象であり、その血を引く慈島もまた、人類の脅威に他ならない。
半分は人間であろうと、半分はフリークスだ。その事実がある限り、人々は彼に石を投げる。だからこそ慈島志郎という人間もまた、己の中に眠る化け物を厭い、疎み、嫌悪している。

悍ましい化け物の血を引く人もどき。人間になりきれない不格好な獣。それが慈島の自己評価であり、彼のコンプレックスは年々激化している。


徐々に化け物に近付く躯に、人の心が押し潰されていく。

それはとても堪えられないことだろう。その恐怖を理解出来る者など、この世界に一人として存在していない。

そんな慈島に、眼を背けるなと言うのは酷な事だろう。だが、彼が人でありたいと願うのなら、残された人間性に縋るなら――何より、愛を想う気持ちがあるのなら、向き合わなければならない。


「何があったか知らねぇが、それでも腹括れ、慈島。てめーが眼を背けていたいてめーと向き合い、あの子と向き合う。それがお前の取るべき責任だ」


慈島とて、分かっている。半人半フリークスと知りながら、それでも愛が自分を必要としてくれていることを。

だからこそ、苦悩した。自分を人間として見てくれた彼女を化け物の眼で見てしまったことが、堪えられなかった。だが徳倉の言う通り、自ら手を伸ばした以上、責任を取らなければならない。罪の意識を抱えているなら、尚の事だ。


「つー訳だ。お前、事務所戻れ。後はガキコンビと俺でやる」

「…………すまない、徳倉」

「悪いと思ってんなら、嬢に償いな」


いつか、彼女が自分を必要としなくなる時が来るまで、償い続けよう。

誰かが彼女の傍に寄り添う日が、出来損ないの”怪物”が役目を終える時が、きっと来る。それまで、だ。


その先に、自分はいなくていい。


早足気味に事務所へ戻るその足取りが、自ら命を擲つもののそれめいていることを自覚しながら、慈島は向かう。

今はただ、中途半端に醜い手を伸ばしてしまったことを償うしかないのだと。


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