FREAK OUT | ナノ


彼女の声に合わせ、二体の眷属が一同の前に立ちはだかる。


一体は、カタツムリと人を組み合わせたような形状のフリークス。緑と黒の縞模様の肥大化した触覚と、肘や膝が螺旋状に捻じれた皮膚が特徴的だ。

もう一体は全身に黄ばんだ包帯を巻き付けた、セミの幼虫に似たフリークス。背中に無数の白く細長いキノコが生えている。

何れも男型のフリークス。前者がインシステント、後者がトライフルだ。


「……アクゼリュスともあろうものが逃げるのか」

「逃げるっていうのは、相手が自分にとって脅威である場合にのみ言うのよ。これはただの業務委託」


邦守の言葉に眉一つ動かすことなく、アクゼリュスはトライフルに目配せする。それを合図に、トライフルは膝を付き、人の形をした両手を地面に突き立てた。

直後、彼を中心に四方八方の地面が盛り上がる。それらは地中から引っ張り上げられていくかのように、トライフルの元へと集まり、やがてその姿を現す。


「死屍累々(ネクロ)」


それは、フリークスの死体だった。十、二十、三十と、次から次へ数を増す死体、死体、死体。その殆どに、一同は見覚えがあった。


「馬鹿と何とかは使い様ね。雑魚共を送り続けた甲斐があったわ」

「……! あれも、布石だったのか……!」


大侵攻の後も一向に数が減らないことを訝ってはいたが、この下準備の為だったかと、邦守は思わず舌打ちした。

アクゼリュスの真の恐ろしさは、その狡猾さにあると雪待が危惧していたのも頷ける。現に、彼が対アクゼリュスの策として梵に協力を要請していなければ、自分達は敗北していた。
それでも尚、アクゼリュスは手札を残していた。雪待がアクゼリュスを警戒していたように、アクゼリュスも雪待を警戒していたのだろう。

此方を侮りながら、一網打尽にする策を講じなら、それでも万が一に備え、彼女は次の布石をも整えていたのだ。


相手は精鋭部隊。選ばれし能力者の中の能力者。それ故、数が少ないことを利用しての物量戦。しかも相手が死体となれば、ただ殺すだけでは終わらないところが厄介だ。

放置すれば当然、隣接都市が襲われる。この数は吾丹場に派遣されているドリフトでは足りない。当然、増援を待つ時間も無い。


「どうします、クニさん」

「海棠寺と逆巻はアクゼリュスを追え!捩尾、お前は俺と共に、こいつらの討伐を!」


アクゼリュスを行かせれば、雪待が彼女の相手をせざるを得なくなる。そうなれば、カストディを取り逃がす可能性が高い。梵と貫田橋が付いているとはいえ、あちら側にも眷属が用意されていることを考慮すれば、アクゼリュスは何としてでも引き止めなければならない。

此処はアクゼリュス追跡、眷属討伐にチームを二分するのがベストと判断した邦守であったが、彼等の行く手をもう一体の眷属・インシステントが阻む。


「騒霊(ポルターガイスト)」


インシステントが指を鳴らすと、先の大侵攻で倒壊した家屋が宙に浮かんだ。
瞬く間に空を覆う無数の瓦礫は、インシステントが手を翻すと共に一気に雪崩れ落ち、地上へと降り注ぐ。

距離を取らざるを得なくなった一同の前に、アクゼリュスを守る城壁のように積まれた瓦礫の山が聳え立つ。その頂上に降り立ったインシステントは、触覚と同化した目玉をぐるりぐるりと回転させながら、邦守達を冷たく見下ろす。


「行かせませんよ。アクゼリュス様に怒られてしまいます故」

「……嫌な能力を持つ輩を揃えてくれたものだな、アクゼリュス」

「お互い様よ」


逆巻を睥睨しながら過分に厭味を込めてそう言い捨てると、アクゼリュスは今一度地面を蹴り、軽やかに宙へ舞い上がる。

時儲けの効果射程圏外。螺子止めは撃ったところでインシステントかトライフルに撃墜されるのが眼に見えている。


届かない。何もかもが。だが、それを言い訳にしてはいられない。

精鋭部隊ジーニアスの名に掛けて、何とかアクゼリュスに喰らい付かなければと、一同は立ちはだかる死体と瓦礫の山へ向かって駆け出した。


単純な頭数では四対二。だが、トライフルが操るフリークスの屍と、インシステントが作った瓦礫兵が加われば、多勢に無勢。
一個体は大した戦力にはならないが、足止めには十分過ぎる数だ。全て片付け終える頃には、アクゼリュスは雪待に追い付き、愛を乗せたカストディは侵略区域に到達する。それで此方の勝ちだ。


「じゃあねぇ、精鋭部隊さん。私がアイツをぶっ殺すまで、其処でたっぷり遊んでいるといいわ」


勝ち誇ったような顔で、アクゼリュスが羽撃く。

目指すは海岸部。既に眷属達を配置しているが、相手は雪待だ。≪蕾≫ランク程度では心許ないし、何より、あれは自分がこの手で引き裂いてやらなければ気が済まない。
今度こそ、彼の全てをぶち壊し、打ちのめし、大切な”英雄二世”が絶望の地へと飲まれていく様を見せ付けてやるのだと、アクゼリュスが翅を動かした、その時。ぶ厚い雲さえ焼き尽くすような炎が、空を焦がした。


「――炎狂い(ピロラグニア)」



一瞬の出来事で、当のアクゼリュスにも、それを見上げていた第二分隊の面々にも、眷属達にも理解出来なかった。


太陽と見紛うような巨大な火球。それがアクゼリュスを焼却し、撃ち落した。

またしても幻を眼にしているかのような光景。風が吹き抜ける音が嫌に大きく聴こえる静けさ。その中を我が物で闊歩する人物に、誰もが目を見開いた。


「おいおいおいおい、天下の精鋭部隊様がなんつーザマだよ」

「あ……貴方は、」


咥え煙草に点された火のように赤い髪。浅黒く日焼けした肌。不敵な笑みを浮かべる凶相。
FREAK OUTに身を置きながら、その名を知らぬ者がどれだけいるだろう。

フリークス討伐数歴代一位のタイトルホルダーにして、元ジーニアス第一分隊所属の最高位能力者。その輝かしい活躍に反し、”放火狂”の名を冠した戦闘狂い。
地位も名誉も、全てが二の次。常に戦いそのものを求め続ける男。


「よう。遊びに来たぜ、ジーニアス」

FREAK OUT第三支部所長、唐丸忍。彼の闖入によって、盤上は再度、転覆する。

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