楽園のシラベ | ナノ



密林の奥深く。木々とシダ植物に囲まれた小さな池の畔で、男が空を見上げた。
それと同時に、夜空に一つ、星が光の尾を引きながら、流れ落ちて行った。

願い事など考える間もなく、星は夜空の彼方へと消えてしまった。
だが、偶然顔を上げた瞬間に、流星を拝めたことに、男は思わず、感嘆の息を零した。


――あの星は、何処に落ちていったのだろう。此処以外の場所なら、何処でもいいのだが。


そんなことを考える程度に、心に余裕が出来ているらしい。
男は、繋がれた体を確かめるように、自分の手を握り固めてみた。


「もう傷も癒えたでしょう? そろそろ、行ってあげたら?」


偽りの楽園と共に崩壊していった筈の体は、同胞の歌によって繕われた。

彼女は、ずっと昔に狂ってしまったと思っていたが――未だ母の歌が、聴こえていたらしい。
あの、とびきり優しく懐かしい、子守り歌が。


「……凝りもせず、また迷子やってるみてぇだしな」


母なる星によって己を取り戻した彼女に、思いがけず拾われた命。
全てを救う為、全てに報いる為、一度捨てた筈のそれを携えて、男は一歩踏み出した。


「仕方ねぇ。ちょっくら、お迎えに行ってくるぜ」


そう長くもない、一人と一羽に出会うまでの道程を行く。ただそれだけの、新たな旅が始まった。


prev

back









×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -