カナリヤ・カラス | ナノ



地下闘技場、という名前から、ギンペーはひっそり佇む入口が、廃墟の群れに隠れているのだろうと想像していた。

が、実際の朧獄館は、実に堂々とゴミ町に構えられていた。


駐車場つき四階建ての建物は、かつて大戦時代に戦火に曝された旧市街のものや、後から住み着いた住人達によって建てられたものとも異なる。
都にあっても遜色ない、しっかりとした外装であった。見た目だけなら、迎賓館とも言えるだろう。

車を停めて、改めて前に来ても、ゴミ町らしからぬ建物だという印象は変わらず。
ギンペーはぽかんと口を開け、面白そうに鴉がカラカラと笑っていたが、それも扉を開けるまでのことである。


「いやぁあ、お待ちしておりましたよぉ!雛鳴子さん!!」


高らかな、よく通る声と共にパシャパシャと素早くフラッシュが乱舞したかと思えば、実に鮮やかな鴉の蹴りが、此方を出迎えに来た男の脇腹へとクリーンヒットした。

あまりに衝撃的な展開に、ギンペーはぽかんと口を開いて硬直し、カメラを連射された雛鳴子はささっと呆れ顔の鷹彦の後ろに隠れて、
床に倒れてもしっかりカメラは守っている男に、上から数発蹴りを入れる鴉を一同はただ見詰めていた。


「おいコラ、キュー。違ぇだろ、お待ちしてる奴がよ」

「あっ、いけません私ったら。うっかりうっかり」


鴉の足から解放されると、キューと呼ばれた男はぱっぱと服を払って立ち上がった。


男でありながらヒールつきのブーツを履いているせいか、元から長身の部類に入るだろう彼は、真っ直ぐ背を伸ばすとかなり威圧的であった。

耳や鼻を飾るピアスや、手首を刺が覆う革グローブ、奇抜な髪型のせいもあるだろう。
衣服はシンプルかつフォーマルなベストスタイルだというのに、見た目はまるでパンクロッカーである。

口調が丁寧なのがまた奇妙だが、やや諄い言い回しがこの町の住人らしいと、
ギンペーがそんな印象を抱く中、キューはにっこりと凶悪かつ人当たりの良い笑みを浮かべた。


「改めまして、お待ちしておりました鴉さん、鷹彦さん。そしてお二人に同行して来てくださった雛鳴子さん!!今日も麗しいですね!一枚よろしいですか?!」

「嫌です」

「あぁっ!そんなつれない貴方も美しい!」

「……あの、鴉さん。この人は」

「あぁ、こいつだ。さっき話してた此処のオーナーっつーの」

「あ、これはこれは初めまして!お噂は伺っておりましたが、お会いするのはお初ですねギンペーさん!」


雛鳴子に拒絶されながらも、またカメラのシャッターを忙しなく連打していたキューが、ハッとなって此方を向いた。

向い合うとまた、かなり強烈というか。勢いに気圧されそうになりながら、ギンペーは軽く肩を竦め。
キューはそんな彼の手を取ってぶんぶんとオーバーな動きで握手をしながら、自己紹介を始めた。


「私、朧獄館のオーナー兼地下闘技場にて司会を勤めさせていただいております、キューと申します!気軽にキューちゃんとお呼びください!」

「あ、は…はぁ……どうもっす、キューちゃん…さん」


キュー、などという名前は、間違いなく本名ではないだろう。

名前など、あってもなくても変わらず。それぞれ勝手に名乗ったり名づけられたりしているこの町では、こんな名前を使っていてもおかしくはないが。
それにしても、またとんでもない住人が出て来たものだとギンペーは疲労感を覚える眼を細めた。

外見はこの際いいとして、福郎の所有物たる闘技場を任されている以上、この男も只者ではないのだろう。
今は鷹彦の後ろに隠れている雛鳴子の撮影に夢中になっているようだが、彼もまた、この町の住人らしく、悍ましい一面を持っているに違いない。

いや、今奇声を上げながら怯える雛鳴子を撮っているのもかなり恐ろしいのだが。


「挨拶も済んだんだ、とっとと本題といこうじゃねーかキューよぉ」


流石に見兼ねたのか、埒が明かないと思ったのか。ある程度キューが写真を撮ったところで、鴉が話しを切り出した。

そこでキューも、仕事の時間だと切り替えに入ったのだろう。
場は一変し、お互い笑みを浮かべているにも関わらず、朧獄館のホールに緊迫した空気が流れた。


「俺ら…いや、俺と鷹彦を此処に呼んだのは、記念イベントの相談なんだろ?回りくどく言う必要はねぇから、素直に吐けよ。俺らに、試合に出ろってよぉ」

「あら、やっぱりバレていましたか」


キューはまるで悪びれた様子もなくそう言うと、「せっかくですから、来賓室でお話しましょう」と、一同に移動を促した。


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