カナリヤ・カラス | ナノ


聞き慣れない筈のその言葉は、不思議と恐ろしく彼の中に馴染んだ。

まるで、自分という存在がぴったりと当て嵌める型を見付けたように。夜咫はその言葉を不意に繰り返した。


「……bW」

「そう。バイオ・フォーセスbW。それがお前の正式名称だ、ヤタガラス」


夜咫・クロフォードという名前も、”鉄亰のヤタガラス”という通り名も、ただの字名だ。

自分にバンガイという名称が与えられたように、それらもまた、彼が人として在る為に貼られたラベルでしかない。

そう嘲りながら、バンガイは語る。彼の本質が何であるか。確かな言葉を以てして。


「俺らは百年戦争初期に造られた人型生物兵器、バイオ・フォーセス。共通する頭文字と、この黒い頭から、大戦中はもっぱら、”ブラックフェザー”と呼ばれていた。数は全部で十機。bWであるお前は、その八號機っつーことだ」


それはかつて、災厄の使いと呼ばれた十機の兵器。人を象った黒翼の”怪物”。

大戦中、幾つもの戦場に降り立っては無数の死を運ぶその姿を見て、敵国の兵士達は、彼等をこう称した。


――ブラックフェザー。


死肉を啄む、不吉の鳥を現すその言葉は、大戦の終息に伴い、いつしか歴史の闇の中に消えた。


だが、終戦から百年経った今も尚、彼等はこの世界に遺されている。

誰一人として在りし日の彼等を知る者もなく、羽撃くべき戦場も無い。そんな今の時代に、忘れ去られた兵器達は今も生きていて。彼も、自らも、その一つなのだとバンガイは言う。

夜咫にではなく、彼の仲間達に言い聞かせるように。


「ば……馬鹿言うでねぇど!!」

「坊、」

「夜咫の兄ぃが……お前と同じ、古代兵器な訳ねぇど!!そんなの……そんなのおかしいど!!」


真っ先に声を荒げたのは、長元坊だった。

夜咫が生物兵器で、しかも、バンガイと同じ古代兵器であるなど。そんなこと、有り得る筈がないと、長元坊は頭を振る。


「夜咫の兄ぃは、子供の頃からおで達と一緒にいるど!!二百年も前に生まれてるなんて……そんな訳ないど!!」


彼は、誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりも信じられる、自分にとっての”英雄”だ。
幼い頃から苦楽を共にし、亰の為、人の為、鳩子の為にと此処まで一緒に戦ってきたリーダー代理であり、兄貴分であり、仲間である夜咫が、お前なんかと同じ”怪物”である訳がないと、長元坊は吼える。

しかし、その叫びは、真実の前で容易く砕かれる、ちっぽけな願望に過ぎず、証明にはなり得ない。

目白達はそれを理解してしまっているが故に、長元坊と同じ願いを持ちながら、誰も、彼と共に声を上げることが出来なかった。


「同じ型式の俺が、今此処にいるってのに、何がおかしいってんだよ」


バンガイに嘲られるまでもない。長元坊とて、本当は分かっている。

夜咫・クロフォードという男が、人間ではない何かであることを。此処に来るよりも前から、ずっと昔から、知っている。


それでも否定したかったのは、その真実が余りに残酷だからだ。

自分達にとってではなく、彼にとって。


「お前らだって、分かってたんだろ?こいつが普通の人間じゃねぇってことくらいはよ!異常なまでの強さ!異常なまでの傷の治り!明らかに人間の常軌を逸脱したこいつを見て、これは人の形をした化け物だって、理解してたんだろ?!」


そう、言われるまでもない。此処にいる誰もが、とうに理解している。

生まれながらに異質で、異常で、彼自身でさえ自覚していたのだ。その躯が、人のものではないということを。

だが、己が正真正銘の”怪物”であるという事実を突き付けられた夜咫のことを想うと、誰も、認めることが出来なかった。


人のように暮らし、人と共に歩み、人として抱いた願いの為に戦った。
そんな彼を、どうして人間ではないなどと言えよう、と。長元坊達が、バンガイの言葉一つ一つに切歯していた、その時。


「その脚だって、治し方を忘れてるだけで、てめぇの躯の使い方を思い出せばいつだって――」


呼吸ごと切り裂くような鋭い風が迫る。

反射的に手を翳していなければ、その一撃に下顎を掻っ攫われていただろう。
腕に食い込んだ鎌を見遣りながら、バンガイは視線で鎖を追い、此方を見据える凛然とした双眸に、口角を吊り上げた。


「……相変らず、勇ましいなァ。レジスタンスの女共はよ」

「目白!!」

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