カナリヤ・カラス | ナノ


「俺の知る限り……亰には、外に武器流すだけの余裕はない筈だったが?」

「少し前までは、な」


内紛の激烈化により、亰の主要産業たる機械製造を担う工場の幾つかが停止。危険を回避せんと、人が寄り付くことも少なくなり、亰と外部の接触は、ほぼ断たれていた。

故に、鴉は亰の現状を知らず、蓮角が亰の名を口にしたことに驚いたのである。


「何でも、統括軍が最新兵器の開発に成功し、レジスタンスの動きが抑えられたことで、外交をする余裕が出たそうだ。前に取引した軍の輩がそう話していたから、まぁ、そういうことなのだろう」


蓮角も、実際に亰にまで赴いて、武器を買い付けた訳ではないので、詳しいことは分からない。

彼が入手した武器は、自治国軍が出した商船で売られていた物であった。
当初、鴉が疑問視したように、蓮角も亰に武器を売っている余裕は無かった筈だと訝った。

亰産の武器の質の良さは、有名だ。その名を騙って、粗悪品を売りつけて来る輩がいる程度に。
蓮角は、これもその手合いなのではないかと疑り、乗員の自治国軍兵に、先程の鴉と同じ質問を投げかけた。

彼が知っているのは、その際見聞きした分だけ。しかし、疑り深い性格が幸いしてか、蓮角が手にした情報量は中々のものであった。


よもや、それがこんなところで役立つとは、と鼻を鳴らして笑いながら、蓮角は鴉の前に手を出した。この先を聞きたいなら、ということだろう。

全く強かな奴だと、鴉が手持ちの煙草を一本手渡し、ついでに火も点けてやった。


「その、最新兵器ってのは?」

「自動機甲兵士、オートマティック・アーマード・ソルジャー。所謂、軍事ドローンだ」


独立に辺り、亰は都に劣らぬよう、様々な技術に力を入れた。
殊に、機械方面は目覚ましい発展を遂げており、今や亰の機械技術は都のそれを凌駕するとさえ言われている。

蓮角は紫煙を燻らせながら、最新兵器の如何に素晴らしいかを自慢げに語ってきた兵士の様子を思い出しつつ、覚えている限りの情報を頭の引き出しから取り出した。


「亰の機械技術は都の一歩先を行っていたが……内乱を経て、更に進化を遂げたらしい。それまで使われていたブレイン・マシン・インターフェース式に劣らぬ、精密動作とリアルタイム操作を可能にした、無人の殺戮兵器……。それが、オートマティック・アーマード・ソルジャーだ。お陰で、前線に出張ることも少なくなり、随分仕事が楽になったと、雑兵が自慢げに話していた。奴が軍人から、武器製造ラインの作業員になるのも時間の問題だろう」

「……成る程、な」


最新兵器の台頭。それに伴う、統括軍の情勢変化。その影響が、此方に及んできたことが、事の発端であったようだ。

蓮角が此処まで設定の込んだ話を作っている訳でも、嘘を混ぜ込んでいる訳でもなさそうだし、一先ず、これで一次報告を済ませてもいいだろう。
最初に訪ねたのが此処でよかったと、鴉は自らの勘の良さを賛美した。


「いい話が聞けたぜ。サンキューな、蓮角」

「礼なら、其処の盆に入れていけ」


ふぅと紫煙を吐きながら、蓮角は入口付近を視線で指し示した。

見れば、其処には適当な台座の上に、黒い布施盆が置かれていて。鴉はうへぇと顔を歪めた。


「募金箱にでもしておけよ。そっちのがまだマシって奴のが多いぜ、この町は」

「葬儀屋らしい見てくれの方がいいだろう。それに、どうせ行き先は俺の財布だ。気にするな」

「お前の皮肉の上手さにはお手上げだ。取っておけよ」


こうして、数枚の紙幣と煙草一本と引き替えに情報を手に入れた鴉だが、その顔はあまり晴れなかった。

てっきりゴミ町のルールを分かっていない手合いの所業かと思ったが、まさか相手が亰だったとは。
これは面倒なことになりそうだと、鴉は後頭部をぼりぼりと掻いて、携帯を手に取った――その瞬間。


「鴉さん!今、何処にいますか?!」

タイミング良く響いた着信音に、驚いたのも束の間。切羽詰った雛鳴子の声に、鴉は眼を見開いた。


「メレアさんが――メレアさんが、攫われました!!」


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