いただきもの | ナノ





「あ、雨!」

一日の授業がすべて終了し、ルーチンワークから解放された学生たちが三々五々に放課後を謳歌する教室に、そんな声が響いた。

「ホントだ、めんどくさー」

「ヤダ、私傘持ってないよ!」

「髪の毛広がっちゃう〜」

その場が詮ないブーイング一色に染まる中、やけに明るい顔をした少女が一人。
艶やかな黒髪を二つに結った彼女は、水平線を描く前髪を揺らして立ち上がる。

「あれ?フミ、もう帰るの?てか、傘持ってんの?」

「ん、平気。折り畳み常備してるから。じゃ、また明日ね」

フミと呼ばれたその少女はそう答えて小さくVサインをする。そして声をかけてきたグループに向かってニコッと笑うと、くるりと踵を返して教室から出ていった。

「フミってさぁ。なんか大人だよね……たまに遠く感じちゃう」

「分かる〜!なんだろうね、顔立ちなんかあたしらよかカワイイ系なのにさ」

「大人びてるってか、達観してるってかんじ?」

「うんうん」

少女たちは今さっき見送ったミステリアスな友人に思いを馳せたが、仲間の一人が思い出したように鞄から雑誌を引っ張り出したことで、彼女への興味は可愛い洋服のチェックへとシフトチェンジしていった。



ぼんやりと薄ら青くかげった道に、スーパーの袋を抱えたあじさいの花がぴょこぴょこと歩く。

急に降りだした夕立は、本来なら紅に染まるはずだった夕焼けを曇った青に変えている。
フミはそれが嬉しくて、あじさい柄の折り畳み傘をくるりん、と回した。フミにとって青は大好きな人の色だ。町中が青に染まって大好きな人に包まれているような感覚になれるから、雨は好きだった。くるり、もう一度傘を回すと、数多の水滴が宙を舞って鈍く光る。

『明日辺り、新作描き始めるつもり』

絵の具の臭いが染み込んだ薄ぐらい部屋で今も筆を執っているであろう男に思いを馳せ、フミは自然と早足になる。

今日描き始めると言っていた新作が、今みたいな雨の絵だったらいいな。

フミは、男の描く青が大好きだった。



「おじさん、ただいま!」

「ん、お帰り」

「新作、どうなった?!」

「あぁ、今描き始めたところ」

玄関を開けて部屋に入ると、男ーーB壱が振り向いた。世の人が見たら悲鳴をあげて逃げるであろうこのキャンバス頭にも、もう慣れた。
フミは逸る気持ちを押さえつつスーパーの袋を台所へ置くと、素早くB壱の元へ戻った。

「ね、何の絵?」

背中に抱きつくフミに嫌な顔をするでもなく(もちろん表情をうかがうことは出来ないが)、B壱はフミの望み通りの答えをくれた。

「さっき丁度降りだしたから、雨降りの町」

「わぁ、やった!私おじさんの青い絵好きだから、嬉しい」

「……そうか。」

ぼそりと返事をこぼし、B壱は笑顔になったフミの頭を撫でた。



台所から包丁の音と、フミの歌声が聞こえてくる。
パレットを置いてタバコに火をつけたB壱は、その音をぼんやり聴いている。

あめあめ、ふれふれ
母さんのじゃのめでお迎え
うれしいな

誰しも知っているような雨の日の童謡を聴いているうちに、B壱の頭には、あじさいに囲まれて笑うフミの姿が浮かんでいた。
薄ぐらい部屋の中で輝くような笑顔を咲かせるフミと、薄ぐらい雨の中で凛として咲き誇るあじさい。我ながらいい構図だ。

「次はフミを描くよ」

B壱が小さくそう宣言すると、何か言った?とフミの声が返事をした。

「なんでもない」

なんと答えようか少し迷ってB壱がそう返す頃には、台所から美味そうな匂いが漂ってきていた。


「明日もまた雨が降るといいね」

「そうだな」

台所から聞こえる楽しそうな声に相槌を打ちながら、キャンバスの頭の下でB壱は、誰にも見えない微笑みを浮かべていた。


―――


SPRECHCHOR!!の赤座さんより、ほのぼのしてナチュラルにイチャつくBフミを賜りました。

こんなにいい雰囲気なのにこいつら片方はぽっくり死ぬし片方は独り身のままババアになるとかね、ハリのお馬鹿さん。

しかしフミの一挙一動が可愛ぇ…B壱もそりゃ可愛がるわ……デレるわ…(ゴロゴロ)

赤座さん、素敵なBフミをありがとうございました!


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