モノツキ | ナノ


「ところで一つ気になってたんだけどよぉ」


数えるのも億劫になる程のビール瓶とジョッキが並んだところで、今や懐かしき信号機頭時代ばりに顔を赤くしたシグナルが、終始気になっていたことを切り出した。

先刻まで、これはタブーなのではと回避してきたのだが、酔いが回ったことで危険意識も緩んでしまったらしい。
この際だからはっきりさせておくべきだろうと、シグナルは一同が敢えて触れてこなったことを指摘した。


「昼行灯、お前なんでまだランプ頭なんだあぁ?」

「あ、それ僕も気になってましたぁ」


そう。ヨリコと晴れて両想いになったというのに、昼行灯の頭はランプのままだった。


異形の呪いは、つくも神が認める”真実の愛”を得ることで、解除される。
薄紅、火縄ガン、シグナル、サカナがそうであったように。
呪われた者自身が心から求める形の愛を手に入れた時、モノツキは奪われた顔と名前を取り戻す。
だというのに、何故に昼行灯は未だ昼行灯なのか。

ヨリコと結ばれたことに舞い上がり、まるで気にしていなかった昼行灯も、ここでようやく「そういえば」と事の重大さを自覚した。


恋仲となって尚、呪いが解かれないということは、昼行灯が求める”真実の愛”の条件が満たされていないということだ。
それが欠けている限り、異形の呪いは継続するだろう。

では一体、”真実の愛”に至るのに何が足りないのか。一同は、頭を抱えた。


「ヨリコさんの言葉や想いに嘘はないだろう。問題があるとするなら、お前が求めるものだと思えるが……」

「ぐっ……た、確かにその……ヨリコさんに対し、色々と望んだりしてはいましたけれど……」


最も考えられるのは、昼行灯が求めるものが深過ぎて、両想いになっただけでは”真実の愛”に成りきれてない、という説だ。

”真実の愛”は、当人が渇望している愛の形。昼行灯がヨリコに抱いている欲望を全て消化して、初めて完成というのも有り得る話だ。
キスまでしてもらったというのに、お前はどれだけ欲深いのだと自分自身幻滅するので、これだけは勘弁してもらいたいのだが。


「……他に、何か思い当たることは」

「そういや、告白してくれたのはヨリコちゃんからだったよなぁ。もしかしなくても、お前からまだ何も言ってないから駄目なんじゃねぇの?」

「あ!その線ありますね!」


次に挙げられたのは、今回の告白がヨリコからのもので、昼行灯が結局何も告げていないことにある、という説だった。

思えば、昼行灯同様に恋をして救済を得た薄紅は、自ら想いを告げたことで”真実の愛”を獲得している。
自身の経験も踏まえ、此方も有力な説であると、薄紅はうんうんと頷いた。


「確かに、お前の想いを全て受け入れるのが”真実の愛”完成の条件だとしたら、お前の口からきちんと言って承諾を得る必要があるのかもしれないぞ」

「な……成る程」

「この際だからよぉ。はっきり言ってこいよ昼行灯。神サマにぱーっと呪いも解いてもらって、二件目に洒落込もうぜぇ」

「…………そう、ですね」


もう何も、恐れることも隠すこともないのだ。
伝えるべきことは全て正直に口にして、確かな”真実の愛”を掴み取る。それが、こんな自分を愛し、想いを告げてくれた彼女への礼儀であると、昼行灯はネクタイを締め直した。

随分流し込んだ酒の助けもあるだろうが、何より、ヨリコに全て受けいれると言われたことが大きいのだろう。
実に堂々とした歩みで、昼行灯はほっけをつまむヨリコの隣へと躍り出た。


「ヨリコさん!」

「は、はい!」


そのあまりの勢いに、ヨリコがあたふたしながら箸を置く中。
昼行灯は恭しく膝を付いて、彼女の手を取ると、思いがけない展開に狼狽する周囲をそのままに口を開いた。


「……今すぐに、とは言いません。貴方が高校を卒業してから……或いは、成人されてからでも、それ以降でも構いません」


望みを洗い浚い打ち明け、それを再度受け入れられることが、”真実の愛”の必要条件なのだとしたら、突き詰めるしかないだろう。

自身の為にも、彼女の為にも、応援してくれた社員達の為にも。
今此処で、全てに決着を付けて然るべきだと、昼行灯は躊躇なく、高らかに、ヨリコに己の想いを告げた。


「双方、身の周りの片が付き、準備が整いましたら……私と、結婚してください!!」

「…………え」

「「えええええええええええええええええええ!!!?」」


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