「あっ、んぁああぁ…!やっ、やぁ、あ、あ…!!」 (やべえ、食いつきがいつもと全然…違う) 少し先端を捻じ込んだだけだというのに、あっさりと吸いつかれ奥へと誘導される。中は媚薬と、散々焦らしすぎたせいか火照りすぎて熱い。 こっちも散々待って挿入したので、興奮度合いは半端でないが歯を食いしばって堪える。すぐに出してしまっては勿体ないとわかっていたからだ。それにセックスが目的ではない。 「抜けよ、っ!こんなの、嫌だ、やだ、死ね、殺すっ、あ…んああぁ!!」 (俺以外のもん入れられてんのに、まだそんなことばっか言ってんのか?違うだろ、違うじゃねえか臨也) バイブで散々解されていたので、いつもはでかすぎると喚く俺自身もあっさりと飲みこんだ。本当に少し腰を振ったら、すべてをぶちまけてしまいそうなぐらい奥が疼く。でも気合いで持ちこたえていた。 だって臨也がまだ、欲しい言葉を吐かない。 セックスはあまり興味が無いと言っていたのに、媚薬漬けにして焦らして頭の中を飛ばしてやって。とうとう他人のモノまで受け入れたのに、まだ隠している。本音を。 「ひっ、うぐ、っ、あ、ぁあ…や、めろってぇ、あ、か、体っ、震え、て…い、嫌だ!」 (…なんだ?) このまままだ耐え続けるのかと思われたのだが、突然臨也の体がビクビクと大げさに震え始める。子供が駄々をこねるみたいに頭を左右に振った。目隠しを外そうとしているのとは違うとすぐにわかる。 首輪と枷の間は鎖で繋がっているので、暴れると余計に体が引っ張られ刺激を与える。そんなことはとっくに気づいていたから、本気の力で抵抗していなかったはずなのに。 まるで自らを追いつめるかのように、全身を揺らして喚き散らした。妙な胸騒ぎがして顔を覗きこむが、当然表情はわからない。 「あぁ、あ、く、っ、怖くない、怖くない、大丈夫、だからぁ、あ…俺は、っ、まだ、っ、うぅ、あ」 (そういえば前に誘拐されたことがあるって、新羅が話してたな。それか?) 急な変貌に思い当たることがあったので、臨也の体をまじまじと眺める。手枷を無茶苦茶に引っ張ってジャラジャラと鎖を鳴らし、さっきまで手首に痕はなかったのに赤く皮膚が切れていた。 混乱している証拠だ。まるで自分自身に言い聞かせるように、怖くないと繰り返しているし間違いないだろう。このまままた、昨日みたいに別の意味で臨也の意識がなくなるなんて冗談じゃなかった。 「…あっ、う!?い、痛っ…!」 (分量を間違えなければいいだけだ。よくわかんねえけど、昔のことなんて忘れちまって俺とのセックスに夢中になれよ) 「ふぁ、っ、あ、やだぁ…くすり、っ、また…きもち、ぃ、の……ッ!?」 用意していた注射針を腕に打ち、中身をすべて体の中に入れてやった。前に媚薬を打ってから時間も随分経っているし、量は調節している。これで体の震えもおさまるだろう。 きっと薬が気持ちよすぎて、そのことだけで頭がいっぱいになるから。誘拐されたという過去の嫌な記憶なんか、セックスで塗り替えてやると思った。 注射器を床に投げ捨てた時には臨也の様子が変わっていて、甘く舌っ足らずな声で柔らかく、気持ちいいと本音を口にした。本人もすぐ気づいて驚いていたが、一度出した言葉は戻らない。 「っ、ひぅ、く…い、やだぁ、なんで、こんなの…せっくす、なんてしたくない、のにっ…うぅ、あ、くるし、ぃ」 (すげえ、自分で腰振り始めたぞ。やっぱり昨日頭おかしくなった時にしたの、体が覚えてんだな) きっと混乱しているのだろう。葛藤しているように嫌だ、と言いながら縛られた体勢のまま腰を揺らし始める。きっと媚薬のせいで刺激が欲しくて、とうとう体が自分でコントロールできなくなったのだ。 こっちは動くことなく腰を掴んでいるだけだったが、性器が臨也の中で擦られて気持ちがいい。早く出したい、と純粋に思っていた。 「あっ、ぁ、これ、ちがう!おれじゃ、ない…からだ、かってにうごい、てぇ…イきたくて、ほしくて、ぁ、あ、ぐちゃぐちゃ、で、もうッ!!」 (あと少しだ、いいからそのまま全部ぶちまけろ。本当のこと素直に言え、臨也!) ぎゅうぎゅうと強く食いつかれて、臨也がそろそろ限界を超えるのがわかる。心の中で必死に呼び掛けて待つ。欲しい言葉を吐き出すのを。 「でる、っ、あ、ぁあ、ひぅ、っ、く…イっちゃう、からぁ、あ、ぁあ…いや、やっ、あ、んぁああっうぅう!!」 そして喉の奥から声を絞り出して叫ぶと、背中が仰け反って臨也自身から精液が飛び散った。お腹どころか胸の辺りまで勢いよく汁が飛んでいて、どろどろに汚れる。 数回全身をビクビク震わせていたが、急に脱力してその瞬間口を開いた。でも聞こえてきたのは、欲しい言葉ではなく予想外のもので。 「あっ、ぁ、ひ…シズちゃ、んじゃないのにっ、だ、した…んぁ、あ」 (そうか忘れてた。こいつまだ俺だって気づいてなかったよな) 「なんれぇ、どして…いや、だったのに、っ、ぁ…っだれでも、いいなんて、いやだ、ぁ、でも、うぅ」 小さな声でボソボソと、自分のしてしまったことに後悔しているような口調だ。これは相当ショックを受けていると気づいて、どうしたらいいのか一瞬迷った。 だけど何もかもを狂わす掠れた訴えが、耳に届いて。 「…ほしい…」 「……ッ!」 体の奥で何かが爆発するのを感じた時には、激しく突きあげていた。しっかりと背中を抱いて、中を無茶苦茶に抉り最高の刺激を臨也に与える。 「いっやぁ、あ、ああぁああ!ちがう、ちが、ぁあ、シズちゃ、ぁ…ごめん、ごめん、なさいっ、ひっ、ぁあ、う!!」 (謝るのかよ!違うだろ、そうじゃねえ!こういう時なんて言うんだ、手前はバカだ!!) まさか臨也が俺の名前を呼びながら、謝るなんて思わなかった。欲しかった言葉に似ているようだったが、全然違う。謝罪じゃなくて、もっと他に言うことがあるだろうと歯軋りした。 プライドの高いこいつが謝るということ自体、相当すごいことではあるのだが、これじゃない。知らない奴に犯されていても、まだ意地を張って黙っているつもりなのかと苛立ちが駆けあがってきた。 「あっーあぁあ!ひっ、うっ、あ…はげし、っ、のすご、くてぇ…あぁ、もっと、シズちゃ、ん」 (あ?もしかして気づいたのか!?) 「シズちゃ、ぁあ、シズひゃ、んっ、ぁあ、きもちいの…いっぱい、っ、して、ねえシズちゃ、んでしょ?」 突然壊れてしまったみたいに俺の名前ばかりを呼び始めたので、動揺した。そして思わず力が入ってしまい、深い箇所を擦りその刺激に堪えていたものが弾けてしまう。 気がついた時には、おもいっきり精液を中に吐き出していた。やっちまったと舌打ちしたが、また臨也の様子が変わる。 「ふっあ、あああぁ!なか、だひ…しないれぇ、あ、シズちゃ、んじゃない、のに、ああ、うぁ!」 (そうかまだ気づいてなかったのか。犯されてる相手が恋人の俺だったらいい、って思っただけかよ。じゃああと少しじゃねえか!) 「んぁっ、まだ、でてる…んはぁ、ふっ、あついの、ださないれぇ、シズちゃ、がいい、いやだ…きもち、いの、やらあ、やっ、あ!!」 どうやら臨也はまだ犯している相手が俺だなんて気づいていなかったらしく、勝手に想像で名前を口走っていただけかと安堵した。頑なに崩れなかったのに、薬と直接性器を挿入したせいで混乱している。 そして本音が、漏れ始めていた。本当は俺としたいと。 背筋がぞくぞくと震えて、一層グラインドが早くなる。とうとう臨也が、あの言葉を言おうとしているのだ。絶対に俺にだけは、化け物にだけは頼らないと拒絶していたことを。 ようやく俺を唯一の相手として、認めてくれると。 「まら、イっひゃう、うぅ、あ、あぁああっー!!」 「クッ…!」 一度も抜かないうちに、つられる様に二度目の精を吐き出す。肩で息をして期待の眼差しで見つめると、唇の端から唾液を垂らし快感に打ち震えていた臨也が告げた。 泣きながら、求めていたことを。 「ひっ、う、ぐ…ぁ、あぁあ、ひっ、く…す、けれ…」 「……っ」 「はぁ、あ、ひっく、ぅ…シズひゃ、ん…たすけれ、よぉ…あっ、んあ、ああぁ!!」 か細い声が聞こえた途端、胸が激しく脈打ちドキドキと鳴った。はじめて臨也に告白した時と同じぐらい、ときめいていると言っていい。とうとう念願がかなったのだ。 つきあいはじめても仕事が第一で、俺のことなんて大して気にかけていないみたいに振る舞っていた。だからもっと、気持ちを向けてほしいと思ったのだ。 危ない仕事をしていれば、いつか本当にこんな風に捕まって酷い目に遭うかもしれない。だけど俺ならいつでも助けてやれる。だから頼って欲しい、もっと信頼して、何もかもと言わないからせめて気持ちを伝えて欲しいと。 「もう、っやらぁ、やっ!シズちゃ、ぁあ、たすけれ!たすけてえっ!ひっ、うぅ、あ、ああぁ、ぐ、っ…!!」 「あ?」 感激に打ち震えていたら、臨也が泣きながら暴れ始めた。目隠しはぐしょぐしょに濡れていて、子供みたいに喚き散らし助けて、助けてと繰り返す。そこでようやくハッと気づいた。 自分の目的ばかりを優先していて、やり過ぎたことを。手枷の隙間から血が流れ始めていて、青ざめた。傷つけすぎてしまったときゅうに罪悪感を覚えてしまって。 「臨也ッ!!」 右手首を掴んで手枷を砕くと同時に、目隠しを取ってやる。そしてとうとう瞳を合わせた。 ようやく見ることができなかった、涙に濡れて弱々しく怯えている臨也の表情が晒されて、心の底から疼く。とうとう、ちゃんと俺のことを見たんだと実感して頬が緩んだ。 text top |