きっと、いつか | ナノ


捌◇身の振り方1


連れてこられたのは、どうやら彼の自室らしい。
部屋は綺麗に片付けられており、机?の上には書きかけの半紙があった。
……そっか、この時代は半紙と筆と墨なのか…。

「突っ立ってねぇで、早く座れ」

感慨深く感じている私にピシャリと飛ぶ叱責に、首をすくめて座る。
うう、着物で正座ってつらい…。

「で、今後の身の振り方だが。
その前に、雪村の話は聞いたか?」

問いかけに、一つ頷く。

「はい。彼女、父親を探して江戸から来たんですね。
新選組も探しているから、ここにいて一緒に探すのだと。
あと、男所帯に女の子がいると不都合があるから、男装しているのだと聞きました」

……あの可愛さで、男装の意味があるんですか?と聞きたかったが、既の所で止めておく。

「なら、話は早え。
アイツは、まぁギリギリ男装で通せるだろうが
お前は…無理だろ」

「はぁ…というより、土方さんも千鶴ちゃんの男装が微妙だって思ってるんですね」

「ッチ」

あ、思わず口が滑ってしまった。
舌打ちが飛んできて、土方さんの眉間に皺が増える。
怒られるかと思ったが、彼は聞かなかったことにするらしい。
綺麗にスルーされた。

「だが女の格好するにも、その髪じゃあな…。
その、何だ……、出家したとか、事情でもあったのか?」

私のショートヘアを見ながら言う。
彼の歯切れの悪い言い方に、初めて気が付く。
土方さんや斎藤さんのように、男性でも長い髪の人がいる時代だ。
女性のショートヘアは、それこそ尼さんとかしかいないだろう。

「ああ、そっか。この時代に短い髪の女性はいませんよね。
私の時代では、髪を伸ばすも切るも自由です。好きなようにしてますね。言うなら、オシャレの一環です。
短いと楽ですよ?髪洗うのも乾かすのも、早いですし」

その言葉に、土方さんの目が見開く。

「.……今、お前が未来から来たって確信した…」

え、こんなことで?
と思ったけれど、どうやらそれだけ衝撃的だったらしい。
土方さんによると、この時代の女性にとって髪は命なんだとか。
髪を短く切るということは、それこそ女としての命を奪われるのと同じらしい。

「そう言われても髪はすぐに伸びませんし…」

二人揃って黙り込み、部屋に静寂が訪れる。

「髪が多少伸びるまでは、男装するしかねぇか。
短い髪の女がいると、余計な憶測を呼ぶだろうからな。
体型を髪の短さで誤魔化す方がいいだろう」

誤魔化せるのか、果てしなく不安だが…。
とりあえず男装をして過ごすことになったらしい。



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