fgo 小さな先輩 | ナノ







十字の大盾から虹色の輪が輝き放つ。

「こんにちは。カルデアのマスター君」

ふわりと甘い花の香りを纏わせたその英霊はその場から歩き出し、嘉の前に止まると手を差し出した。そう、バビロニアでお世話になった花の魔術師マーリンの姿だった。

「違います。貴方の後ろにいる人が、貴方のマスターですよ」

嘉は彼の後ろで目を丸くしその場で立ち尽くしている後輩の姿を捉えた。恐らく彼を召喚した衝撃が強かったのだろう。隣には動かない彼女を心配しているマシュの姿があった。嘉が2人を指差し教えるとマーリンも後ろを向いて同じようにその光景を確認した。

「あれ、そうなのかい?君とは夢の中でちょくちょく出会ってるんだし、てっきり君に召喚されたのかと思っていたんだが…」

マーリンの思いもよらない発言に立香はさらに驚きを隠せなかった。嘉とマーリンの経緯を詳しく聞こうと立香とマシュはこちらに向かい会話に参加する。

「え!?先輩夢の中で会ってたの?!」
「そんなことない」

まるで記憶にないのだ。否、夢だからこそ記憶に残らないものが大半であるが。覚えていない嘉に当然だというようにマーリンは言葉を続ける。

「まあ覚えないのも仕方がないさ。だって夢だからね」
「は、はあ…」

嘉のため息混じりな返事が出る。本来ならばこの魔術師はマスターである立香と仲良くするべきであるのだが。何故ここまで私と言葉を交わすのか、と嘉は頭の中で思考する。召喚時、あんなに喜んでいた後輩に迷惑ではないかと嘉は謝罪の言葉を彼女に述べた。

「ごめん立香…、君が召喚したのに…」
「全然良いですよ!寧ろマーリンろくでなしだし無闇に絡まれたくないんで、どうぞ仲良くしてやって下さい!」
「それはそれで嫌だなあ…」
「なんだか酷い言い方だね私のマスターは!」

立香が言うのも無理もない。それはバビロニアで得た知識だった。彼は「幸福な結末」を見る為ならば味方に害が及ぼうと構わない、そんな人だった。これからこのカルデアがマーリンによってまた悲惨な目に合うのかもしれない。立香も嘉自身も思っていた。マシュの肩に乗っているフォウくんに至っては、彼が召喚されてから喉を唸らせており、すぐにでも跳び蹴りを与えようという体勢で待っている。

「まあ兎に角、これからよろしく。マイロード」

切り直しという様にマーリンは嘉に向き合い頬笑みながら言葉を交わした。
本来は立香に召喚されたマーリンなのだが表向き嘉のサーヴァントとしてカルデアを楽しんでいるのであった。