fgo 小さな先輩 | ナノ







※真名あり




「こんなところで、どうしたの」

燕青___。雨の中傘も持たずに立ち尽くし空を見上げているアサシンに、契約を結んでいる嘉は彼の真名を呼び歩み寄る。

「風邪引くよ」
「大丈夫だって、俺英霊だし。マスターの方が風邪引くぜ?」

嘉はアサシンの目の前まで来ると自身より背が高い彼を傘の中に入れてあげた。
彼は時々、誰からの許可もなくレイシフトをすることがある。移動先は決まって新宿。高い建物に虚ろに輝く街の煌きは何度きても変わることは無かった。途切れることなく降り続ける雨以外は。

「英霊でも駄目。この傘しかないからちゃんと入って。ご飯も出来てるから帰ろう」
「……なぁ、マスター。もし俺がアンタのこと裏切ったらどうする?」

自分でもおかしな事を問いだと思う。勿論アサシン自身マスターを裏切ることはないのだが。しかし嘉は視線を何処かに向けじっと考え込んでいる。今回も今までも、不意に口に出す突発で意味のない質問にも嘉はしっかり一つ一つ丁寧に答えてくれる。そんな所もみんなを惹きつける一つであるのかと彼は感じていた。沈黙と雨の音だけが響き渡る。

「裏切ったらちゃんと怒る、あとは謝る」
「謝る?なんでそんな事」

彼が問い返すと嘉はいつも通りの能面のような表情で答える。

「マスターなのに、燕青の気持ちを分かってあげられなかったから……とか」

いや、まだ裏切られたことは一度もないんだけど。と、嘉は少し考え込んだ顔でブツブツと呟いている。それを聞いたアサシンは目を丸くしていた。普通裏切られたら相手に復讐するか絶望するか。はたまた無理矢理にでも仲間に戻すか。とにかくそれくらいだろうと思っていた。
それなのに嘉はどの類にも無いもので、謝る、と。流石にどんなに無知やお人好しのやつでもしないだろうに。マスターは飛んだ変わり者だな。
未だ驚くアサシンに嘉は降り続く雨音にも聞こえるくらいの声で言い放つ。

「燕青のこと、信じてるから、そもそも裏切られないと思う」

嘉はいつも通り無表情なその顔で、しかし曇りのない真っ直ぐな瞳をアサシンに向けながら。

「ほら、私お腹空いたから早く帰ろう」
「…っふ、あはは、」

ああ、我がマスターよ、無頼な俺をここまで信じてくれるのであれば、喜んでこの身を捧げよう。
強い決意と想いを秘めながら、アサシンは嘉の腰に手を回し抱き寄せる。

「え、燕青…?」
「いやあ、我が主に召喚されて俺は幸せもんだねえ」

濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた。



「びしょ濡れだね。ドライヤーで髪乾かすの時間かかりそう……あっでも霊体化すれば一瞬で乾くか。」
「えー、マスターが乾かしてくれよ」
「うーん。そしたら今度新宿来た時にラーメン奢って」
「いいよぉ」

一つの傘に2人の男女が呑気に話しながら新宿から姿を消した。