fgo 小さな先輩 | ナノ







なんだか、見てはいけないものを、見てしまった気がする。

時刻は12時をまわった。毎回行われる検査が今日も終わり、今回は自身が使用している部屋へ戻ることはせず、現実から逃げるようにカルデア内の書斎へ足を進めた嘉は不意に立ち止まる。視界に映ったものは、少し古びた大きなソファで目を閉じすやすやと眠っている、クリプターのひとりで、リーダーでもあるキリシュタリアの姿。
嘉が驚くのも仕方ない。何故なら彼女は彼を、魔術も、人柄も、知識も、何もかも全て優秀で完璧な人だと、そう認識していたのだから。
お昼寝をする人だったなんて知らなかった、やはりみんなをまとめるリーダーは疲れるものなのだだと、彼女は思った。

「きれい」

うたた寝をしているキリシュタリアさんの姿が、とても綺麗で、つい彼の目の前まで近づいてしまった。起きる気配はないし、多分、大丈夫。
規則正しく呼吸を繰り返す彼の顔を覗き込めるように嘉はその場でしゃがみこんだ。
絹のような滑らかな金色の髪。長い睫毛。鼻筋が通っていて、肌も荒れていない。整っている彼の顔立ちを、まじまじと、まるで引き寄せられたかのように、彼女は見つめてしまう。

「…ぁ」

ほんの僅か、彼の首が横に傾いた。そして徐々に重力に従い体ごと横に倒れようとしている。彼1人しか座っていないために、痛くはないだろうが、このままだとソファの肘掛け部分に頭をぶつけてしまうと察した嘉は彼を起こしてあげようと試みるも、あまりにも気持ちよさそうに眠っているものだから、起こすにも申し訳なく感じ、どうすれば良いのか分からず、うだうだと考えているうちに夢の中にいる彼は再びずるずると傾いていく。

「っ、あぶない」

咄嗟だった。傾きかけた彼の肩へ手を伸ばして押さえた後、キリシュタリアが同じ体勢で眠れるようにと、嘉は彼の隣に座り、彼が自然と自身にもたれかかれるようにする。すとん、とキリシュタリアの頭が彼女の肩に預ける形で乗った。

「ん、」

キリシュタリアさんの髪が首筋に当たって、とても、くすぐったい。
彼が起きる気配がない。これは、長い戦いになりそう。何か面白そうな本を見つけてから来るべきだったと、嘉は少しばかり後悔するのだった。





「ふぁあ…」

決して長くはない時間が経ち、何も出来ずぼーっとしている彼女の隣で、眠っていた本人がもぞもぞと動きだした。ひとつ、大きな欠伸をして、とろんとした、焦点の合っていない瞳で瞬きを繰り返している。やれ目が覚めたかと思いきや、彼は再び目を瞑り意識を手放したのだった。
相当疲れているのだろうか。やっぱり起こすべきなのか、と考えはじめる嘉だが、彼と一度も話したことがないために、なんと言葉をかけてあげたら良いのかさっぱりで。

彼の欠伸が移ってしまったのか、嘉も同じように口を開き息を吸い込む。隣で眠り続けるキリシュタリアの体温があたたかく、下手に動けないことと検査の疲れもあり、自然と彼女の目蓋が重くなっていく。

眠ったらいけないのに、でも、少しだけ。ほんの一瞬、目を瞑るだけ、だから。