魔力の蓄積量、前回より30%減少。増加させます
1、2、3…魔力の増加完了
放出、蓄積量減少共に無し。維持しています
バイタル機能、正常。血圧、脈拍も安定
診察を終了します___
スカーレットの液体に私の顔が映る。
「今回は随分と時間がかかってたわね」
「はい」
魔術師の家庭で産まれた者でありながらも、体内にある魔力を扱えない為に医療班によって診察を受けるのが日課の私は、現在、カルデアで世話になっているお二人と共に束の間の休養を取っていた。目の前にはカップに淹れられた紅茶と数種類の焼き菓子。いわゆる“お茶会“と言われるものだろうか。普段、予定もなければ診察後そのまま自身の使用する部屋まで戻るのだが、今私がいる空間は最近出来たばかりのティールーム。倉庫だったものを、ロマニさんが改装して造った部屋だそう。その空間に、ほかのマスター候補や職員は誰もおらず、同じく椅子に座っている二人と私だけである。時刻は夕方だから、みんな食堂へ向かったのかもしれないな。
否、呑気なことを考えている場合ではない。
「すみません」
「もう、どうして謝るの。嘉ちゃんが悪い事なんてしてないじゃない」
「でも、あの、貴重なお茶会の時間が、短くなってしまって」
謝罪の言葉を告げば、悪くない、と返してくれた。とはいえ、魔力を安定させられない私自身の責任でもある。診察の時間が伸びた分、茶会の時間が短くなってしまったことに変わりはないのだ。
カップの中の水面に映る自身の姿を再度見、感傷に浸っていると、彼は小さな溜息を溢して私の名前を呼んだ。
「お茶会なんていくらでも出来るわよ。それよりも、あなたの体が無事に動いて、意識があって、こうして会話できる…そっちの方が大事なんだから」
彼だって、今日もずーっと嘉ちゃんのこと、心配してたのよ?
気さくでムードメーカーな銀髪の彼は頬杖をつきながらふわりと微笑んだ後、同様に椅子に腰掛けカップに口をつけている男性を横目で見た。私も続いて視線を向ける。男性は、私たちの目線など気にせず紅茶を一口飲み終えると、銀髪の彼の名を呟いた。
「……妙漣寺」
「ちょっと!その名前で私を呼ばないでよ!」
ころころと表情が変わる彼____ペペロンチーノさんと、そんなペペロンチーノさんよそに再びカップに口をつける彼の光景を見て、私は思わず口元が緩んでしまっていた。さっきまで謝っていたのに笑ってしまうなんて、失礼なことだと思うが。
「ありがとう、ございます。ペペロンチーノさん」
ペペロンチーノさんに、感謝の言葉。そして、口数が少なくて、何を考えているのか分からない、そんな印象を持つ彼の、くすんだ紫色の瞳を見つめる。
「デイビットさんも」
「ああ」
デイビット・ゼム・ヴォイド。ある日突然私に声をかけてくれた、当時も今も謎が多い人物で、ペペロンチーノさんと同じクリプターのひとりで、私の先輩。デイビットさんは、単なる気まぐれで話しかけてくれたと思うけれど、私の中では魔術師としても、マスターとしても、人間としても、かけがえのない人で、憧れで、いつしか数少ない大切な存在になっていた。
きっと、この人のおかげで、日々の診察に耐えられているんだと思う。
「ほらほら、クッキーもあるから食べなさい。とっても美味しいわよ?」
「いただきます」
ペペロンチーノさんはにんまりとした笑顔で用意していた焼き菓子を勧めてきたので、遠慮なく頂くことにする。診察後に食欲もさほどなく、夕食前に甘いものを食べるから、今晩はこれでお腹が満たされるのだろう。
サクッ。
さっぱりとした甘味が口の中でほろけた。