fgo 小さな先輩 | ナノ







※真名あり





獣が、大きな口を開き、欠伸をひとつ。



サーヴァントとはいえ、マスターや魔術師からの魔力供給がなければ消滅してしまう存在である。
フェイトによって多くのサーヴァントと契約し使役できる藤丸立香とは違い、嘉は自身の魔力を通して契約者を維持しなければならなかった。人理の為にと一度だけ藤丸から魔力を貰い、微小だがサーヴァントを複数召喚できるようになったものの、殆どフェイトを介していない為に嘉の負担は大きい。その為、彼女の持つ属性も兼ねて医療スタッフから薬を調合してもらい毎日欠かさず飲んでいることも事実である。結果、彼女に召喚されたサーヴァントは負担をかけさせまいと、日々思考を巡らせていた。

すまない。

嘉が専用の櫛でロボの乱れた蒼い毛並みを整えている時だった。
向かい側にいる首無し騎士が、そう告げたような気がした。当然、彼が話せることなどあり得るはずもないが。しかしながら、重く錆び付いた、それでいて透き通った声が、確かに嘉の鼓膜に彼の言葉が響いた、ような気がしたのだ。
束の間、嘉は手を止め、共にロボの毛並みを整えてあげている彼に目を向けたが、再び目の前の蒼に視線を移し手を動かす。

「マスターなので」

ただ一言放ち、黙々と作業をこなす。

「アヴェンジャーをお借りしたいです」と、突然謙った態度で現れた後輩から頼まれたのが事の始まりだった。なんでも、素材集めをする際、敵が強力な裁定者だそうで、相手の強化を解除し、しかも裁定者の弱点であるヘシアン・ロボに素材集めを手伝って欲しい、というものだった。
案の定ヘシアン・ロボは激しく動き回ったらしい。流れに沿って伸びていた、太く、されど柔らかな毛布のような蒼は見事に絡まり埃まみれで、乱れていた。毛並みを整えてあげていた理由はそれにあたる。サーヴァントは存在維持の他にも、戦闘で傷付いた箇所や衣装、切断された髪も、その分マスターや魔術師から魔力を受け取り回復を行えるものである。嘉の魔力を通じれば直ぐに元の状態に戻るのだが、彼も、獣も魔力を貰うことはしなかった。
彼女の体にどれだけ負担がかかっているのかを、理解していたから。

「素材集め、お疲れ様」

これが終わったら、3時のおやつ食べようね。

次は、彼を視線にとらえ、嘉は呟いた。ヘシアンも彼女が自信に目を向けたことに気付いたようで、梳かしていた手を止める。今度は、彼が頷いたように見えた。首から上は、無いのに。

その後、後輩から、謝罪と感謝のお詫びに、と、おやつのスコーンを嘉に渡している姿が厨房で目撃されていたとか。