fgo 小さな先輩 | ナノ







人間、誰しもは一度後悔する、そういう性質の生き物だ。それが些細なことであれ、大きなことであれ、嗚呼、あの時こうしていれば、とか、やらなきゃよかった、とか、後ろ向きな出来事を思い出し惜しむものだ。
それならば、いま部屋のベッドの上で横になっている俺のマスターは、嘉は、どうなんだろう。カルデアに来て、魔術師として、マスターとなって、召喚して、一般人に戻れない人生を、どう思っているんだろう。

「マスターは、今までの人生で後悔したことあるか?」

彼は、問う。彼女の隣に寝転がって。

「してない、こともない、というか、うーん」

彼女は、答える。同じ目線にいる彼と目を合わせて。

何だそれ、と、曖昧な回答にアサシンはふにゃりと笑う。彼女も後悔することは少なからずあったようだ。それなら、

「此処に来たこと、後悔して」
「ないよ」

迷いのない透き通った嘉の瞳にアサシンが映る。お互い何も語らず黙ること、ほんの数秒。カチカチカチ、静かな空間には、規則正しく秒針が刻む音。

「カルデアに来たからこそ、出会えた人たちがいるから。それに____」

アサシンは、わっ、と小く息を吸い込んだ。

つい、口が歪んでしまう。マスターは自身の放った言葉が可笑しいと勘違いしたのか、すまない、と俺に詫びていたが、決して違うのだと、緩みきった口角を戻すことなく否定をする。寧ろ、嬉しい。
なんだか恥ずかしくなってきた。明日も朝から忙しい日々が続くから、もう寝かせようと、近くに置かれてあった毛布を彼女にかけた。そして幼い子供をあやすように、そのままお腹辺りを一定のリズムで軽く叩く。といっても、マスターは、大人に近いのだけれど。それでも彼女は素直にアサシンの行為を受け入れ、瞼を下ろした。

「おやすみ、マスター」
「ん」

アサシンは思う。前の主人も、目の前で語るマスターと同じように、前向きに物事を捉えていたんだろうか。騙され、罪を着せられ、果てには永訣した自信家で自己中心的な彼を、アサシンは思い出す。幼い頃から隣で見てきたが、波乱万丈な人生だし、そんなはずないと理解している。故に、後悔は山のようにあるはずだ。
けれど、彼は人生を後悔していたと、確定することができなかった。マスターと似ていたから。彼とマスターは、性格も、人柄も、考え方も全く違う。それなのに、ふたりはどこか似ている。主君と従者という立場だからではなく、もっと、単純なもの。明確にはわからないが、雰囲気とはまた別の、言葉では言い表せない何かを。
あのとき彼に、後悔しているかと、マスターと同様に疑問をぶつけいれば良かったな。

目を瞑る。アサシンは、彼女の放った言葉をもう一度思い出し悦に浸るのだった。



___燕青と出会えたから、私は幸せ者だね。