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「『空色の左眼を持つ少女は不安と好奇心を胸に、初めての世界へ一歩足を踏み入れるのであった』…ええ、とても良い小説が書けそうです!ありがとうございます。ところでご質問なのですが、病院で目覚めた時の感想は?ポケモンについての思いは?ギーマさんと出会ってどんなお気持ちでしょうか?それから好きな食べ物などは?利き手はどちらですか?あとは、」

確かにギーマさんは、色々と問いただされるだろう、と言っていた。あながち間違いではない。ただ予想していた質問が遥かに違っていて内心困惑しているだけ。

「あ、うぁ、その、え、えっと、…」

目の前で、いかにも高級そうな万年筆とノートを手に持ちすらすらと書き留めては問い詰めてくる紫色の女性にどう答えれば良いものか。質問の量も多いこともあって、私は言葉にならない単語を口から次々と溢してしまう。

「あ!ごめんなさい、失礼致しました。ご挨拶が先でしたね。四天王と小説家をしています、シキミです」

おそらく丸いフォルムの眼鏡を掛けているのであろう。視界の端に映る縁は細めで、彼女は愛用の眼鏡をかちりとあげる仕草をしながら軽く自己紹介をしてくれた。しかし挨拶のマナーである握手を要求して来なかったことから、私が人やポケモンを触れない事情をギーマさんから事前に伝えられているのだと察する。正直、知られていないよりは知られている方が有難い。彼の些細な優しさを噛み締めつつ、紫の女性にお辞儀をしながら挨拶を返した。

「シキミ、さん…ですね。初めまして。ヴィダといいます」
「!…そのお名前、気に入っていただけて何よりです!やはりあの時名前を考えた甲斐がありました!ですよねギーマさん!」
「彼女、泣いて喜んでたぜ」
「成程…『名を与えられた女は嬉しさのあまり涙を零した』…!」

忘れまいとノートに万年筆を滑らせ書き留めるシキミさんの姿を見て、以前ギーマさんが私に名前を付けてくれたとき、知り合いが小説家だと言葉にしていたのを思い出した。もしかしてと思いそのことを話すと、やはり知り合いの小説家はシキミさんだったようで、感謝を伝えれば、最終的に名前を決めたのはギーマさんだ、と彼女は答えを返す。それでも私は再度彼女に頭を下げ、ありがとう、と伝えるのだった。

先日、挑戦者が来る前の空き時間で三人と挨拶をしようという流れになり今朝ポケモンリーグまで案内されたものの予定よりも早く挑戦者が来てしまったらしく、その時は四天王である他の三人の姿を見ることは叶わなかった。ギーマさんの指示通りポケモンリーグへ繋がっている広間で待機していたが、流石は四天王といったところか、思いの外早く終わり今こうして挨拶をさせていただいている。というのも、挑戦者に無事勝利した方はポケモンセンターに寄る為遅くなるとの事。もうひとりに関しては首を傾げるだけの状態。つまりは私の目の前にいるのはシキミさんとギーマさん、

「この子、少し借りるわね」

だけかと思っていた。
居ました、背後に。足音すら聞こえなかったから誰も居ないのかと思っていたのだけれど。振り返ると光沢のある金髪が視界に映る。突然の来訪者にはくはくと脈を打つする私の心臓を他所に、本人は口元に手を当てながら呑気にあくびをしている。

「ギーマ、さん」

借りると言われても反応に困る。どうすればよいのか分からず、ちらりと彼へ視線を向けた。空色の瞳が相変わらず綺麗だった。矢先、彼は何かを考え込んだ表情をして、はあ、と溜息を吐いたのである。

「……賭けるか」
「?」
「いや何でも。今は彼女の指示に従うといい」
「は、い…」
「心配しなくても、カトレアさんは良い方ですから!」

それじゃあ、ついてらっしゃい。桃色の衣装を身に纏う女性はそう私に告げて歩き出す。彼女が向かう先に待機しているのは専属の執事の方だろうか。遠目からでも分かるほどにかっちりとしたスーツを着こなしていた。
本当にいいのだろうか。ポケモンセンターに寄ってポケモン達を回復している方とはまだ挨拶できていない。もしかしたら移動している際に鉢合わせする可能性はあるかもしれないけれど。

「ぼーっとしていないで、早くこちらへいらしてくださる?」

ふわり。手招きをされた瞬間、自身の意思とは別に体を引っ張られるような感覚と共に女性の元へ足が動きだす。

「?!」
「いってらっしゃいませー!」

元気よく声を発するシキミさんを最後に、私は謎の能力に引っ張られながら桃色の彼女と広間を後にした。


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