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目が覚めたら、記憶にない真っ白な天井が広がっていた。

頭から足先まで動かす力がない中で唯一、眼球だけをきょろきょろと左右に動かし辺りを見渡す。視界の端で、天井と同じ色の布のようなものが垂れているのを確認できた。

一体此処はどこで、わたしは何者なのだろう。

何故こんなことになっているのだろうか。過去に何が起きたのか。疑問が沢山浮かぶけれど、何も出来ずにぼうっと考えているだけで、時間は刻々と過ぎていくだけである。
意識が徐々に戻ってきた反応なのか、突然左腕に妙な違和感。少しだけ動かせる程度にまで回復できたようで、違和感の原因を知る為に首を動かし確かめてみる。左腕の一箇所に生まれる小さな痛み。そこから、何かの液体が入っている透明な袋とを細いチューブで繋いでいた。所謂、点滴というものである。となれば、私以外の誰かがいるのだと確定した。
お礼を言わなければ、そう思った矢先の事。遠くからこつこつと響きの良い音。

靴音だ。しかも複数。沢山いるわけではないけれど、片手で数えられる程度。しかも靴音は次第に大きくなったと思えば、突然ぴたりと止まり一瞬の静寂を作った。
そして、扉を開ける音。

「!…ああ、目覚めたのだね。よかった」
「意識、確認します。もしもし、私たちの言葉が聴こえますか?今、私の指は何本見えますか?」
「先生。バイタル、安定しています」

おそらく医師であろう白衣を着た男性と、担当をしていた看護師さん、とでも言うべきだろうか。私を囲うようにテキパキと仕事をこなしていく姿に思考が追いつけなくて、声を出そうにも喉が渇き切っていてうまく出せなくて。医師はそんな私を察してくれたようで、落ち着いて、などと微笑みながら言葉をかけてくれた。
再び、扉が開く音。

「おお、気が利くねタブンネ。ありがとう」
「……………は、」

まさに、目を疑う光景。入ってきたのは人間ではなく桃色の動物である。しかも二本足で立ち、水の入ったコップを前足でしっかりと持ったまま私の近くまで移動してきた。

私は夢でも見ているのだろうか。だとしたらあまりにも、感覚や左腕の痛みはあるし、やっと力が入り動けるようになりだした右腕をあげて頬をつねってみれば頬に痛みができた。案の定、目の前の光景は現実なのだと身に知らされる。それでも二本足で歩く桃色の動物に脳の情報処理が追いつけないのも事実だった。
とりあえずその動物に差し出されたお水でも飲んで心を落ち着かせよう。医師が言う“たぶんね“という名前の動物が持つコップへとゆっくり手を伸ばした____









「そうか、無事意識を取り戻して何よりだよ」

朝日が登り始める時刻。医師から連絡を受けて、愛獣の一匹であるドンカラスに乗り病院へ向かい、再度彼女の容態が無事だということを告げられた。

絹糸のような雨が降り続く夜の日、路地裏のゴミ捨て場に捨てられたように倒れていた女性。

あの日保護して病院へ連れて行った記憶がひしひしと蘇る。あれから数週間経ち、ようやく彼女が意識を取り戻したようである。しかし医師の表情は曇りがちだった。

「おや、どうやら浮かない顔だね、彼女になにか悪いところでも?」
「ああ、いえ、身体の方は無事だったのですが………、」

医師はしぶしぶと、重い口を開く。

「彼女、ポケモンにさわれないんです」


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