(02)



カプ・ブルルという名のポケモンが守り神としている島___ウラウラ島は、他の三つの島よりもひとまわり大きいのが特徴で、その分砂漠や雪原、高地なども豊富な一方、その地形を利用した建物も少なからずある。天文台がそのひとつだ。

「まあ、これでも警察官だし、どーんと頼ってくれていいんだぜ」

という島についての知識を、警察官の彼から一通り教えていただいた訳である。

灰色の髪、赤い瞳、そしてなにより猫背が特徴的なクチナシさん。ギーマさんもアローラへ来てから彼にお世話になったそうで、彼はこの島の警察官であり、島キングという役割も任されているという。島キングについては正直よく分からないけれど、ギーマさん曰くジムリーダーと似たような立場との事でやっと理解できた。どの地方においてもジムリーダーが必ずいると思っていたからやや新鮮である。

「んでもって…ほれ、俺の相棒」

互いの自己紹介が終わった次に、クチナシさんは自身が所持していたハイパーボールのひとつを掴みポケモンを召喚する。目の前に現れたのは、大型の猫。レパルダスのようなすらりとした体格で、一方顔は丸みを帯びているという少々アンバランスなポケモンだった。

「うわぁ……っ」
「嬢ちゃん、如何にもペルシアン見るの初めてです、って反応だなあ」

その場でしゃがんで、クチナシさんが出したポケモンと同じ目線になる。口元の両端からちらりと見える尖った歯に、硝子玉のようなものが額についていて、眺めれば眺めるほど愛くるしい生き物だ。

「ねこちゃん…」
「コイツはペルシアン。着流しの兄ちゃんが使うポケモンと同じ悪タイプだ」
「えっそうなんですか?こんなに可愛いのに全く悪タイプに見えないです」
「お?ヴィダちゃん見る目あるねえ。可愛いだろ、特にこの丸顔なところ」

けらけらとくだけた笑みを浮かべたクチナシさんを見て、本当にペルシアンが好きなのだという想いが伝わってくる。
ペルシアンはニャースというポケモンが進化したものらしく、クチナシさんが勤めている警察署の方で沢山のニャースを保護していると教えていただいた。もしかしたらこのペルシアンもその保護されたニャースの一匹なのかもしれない。他人の事情に口を挟みたくはないので心の中で疑問が残っただけ、なのだけれど。見た目からして毛並みも整っていることから、日々しっかりとお世話をされているよう___

ふに。

「にゃーご」

_____ん?

「にゃあん」
「……………ぁ」

思考が一瞬止まってしまい追いつけなかったが、ペルシアンにされたことを理解した途端頬が熱くなるのを感じた。同じ目線になるようしゃがんでいた脚は力が抜けて、地面へとくっつくように座り込む。
今この始終を見ていたのだろうか。助けを求めるように悪タイプ使いのふたりに視線を移動させれば、ふたりも眼を見開いたままその場で固まっていた。ギーマさんに至っては顎に手を添えたポーズのまま石のように固まっている。

「は、はわ……わ」
「あれま、ペルシアンなにやっちゃってんの」
「にゃあ?」
「ねこだまし、ってか。可愛いことするじゃないの。そんなにヴィダちゃんのことがえらく気に入ったのね」

湿った鼻の感触、呼吸が止まる感覚。いまのがあのねこだましという技に含まれるというのか。なんともおそろしくあざとい生き物である。一呼吸してペルシアンを再度見つめると彼女は大きな欠伸をして尻尾をゆらゆらと揺らめかせていた。わたしは何もしていません、とシラを切っているみたいだ。そんなことをされても私は別に怒らないのだけれど。

「ヴィダ、立てるかい?」

さくさくさく。砂浜を踏む革靴の音と共にギーマさんが近寄り目の前に立つ。腰でも抜かしたと思ったのだろうか。しかし実際そこまでびっくりしたわけではないから全然平気だ。私はすぐにその場から立ち上がる。

「あ、はい、もう大丈夫です。ありが」

服に付いた砂を軽くはたき落とそうとしたときだった。突然腰に手を回されたかと思えば開いた片方の手で私の顎に触れる。

唇が重なった。

「ん、んん…」

浜に寄せ返す波とは違った水音が耳元で煩いくらい響き渡る。
華奢な体つきとはいえどやはり男性。決して逃がすまいと腰を押さえている手に抵抗出来ず、そもそも生き物に触れることを恐れている私がギーマさんに手を出して妨げることすら出来ない為、半端諦めるようにそのまま身を委ねる形で目を伏せて彼の行動を受け入れた。

「なんだよ兄ちゃん嫉妬かあ?こりゃまた意外にガキっぽいところもあるんだな。とりあえずまあ、いいもん見させてもらったわ」

腰にぴりぴりとした感覚が駆け抜ける。脚に力が入らなくて、ギーマさんに体を預けるような形で倒れ込んでしまったが、彼は抱き締めるように受け止めてくれた。

「……ふう。アンタも所詮、悪タイプ使いってわけか。まんまと罠に嵌められたよ」
「おじさんから見りゃあわざと引っかかってくれたようにしか見えなかったけどね」
「ふふ、さてどうかな」

悪タイプ使い同士による探り合いの会話を他所に、一方の私はクチナシさんの前で口付けをされてしまったことへの羞恥心しかない。まだ人気の無い夜の時間でよかったと、ギーマさんの肩に顔を埋めながら顔中に集まった熱を覚ますのであった。


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