01



彼の元に保護されたのは良いものの、だからといって、生き物と関わる瞬間がない筈もない。




「げ、ぅぐ…ッ」

お手洗い場を借りてこの始末。手で口元を押さえ吐かまいとしたけれど、案の定気持ち悪さが勝ってしまいトイレへ胃液混じりの異物をぼたぼたと溢す。唯一成長したところは、病院で目覚めて直ぐその場で戻してしまったような事はせず、ちゃんとお手洗い場まで移動してから戻したところである。
すべて吐き終えて、力の入らない脚を無理矢理動かして洗面台へ向かい口をすすぐ。含んだ水が想像以上に冷たく感じた。

「お疲れ様」

お手洗い場の扉を開ければ、この屋敷の宿主であるギーマさんが壁に背中を預けていた。

いつの間に帰ってきていたのか、なんて言える体力など今の私には持ち合わせておらず、ただ心の中で謝ることしか出来なかった。




柔らかなソファに座らされると、彼は温かいココアを淹れてくれた。目の前にある机にココアが入ったカップを置いて、それを私が手に持つ。一口飲むと、空っぽの胃に甘さが染み渡っていくのが伝わった。向かい側のソファには脚を組んで座る彼。

「その…すみません」
「なに、ヴィダが謝る必要はないさ」

何故私が異物を戻していたのか。それは彼が今育てているというズルッグの頭に手が触れてしまったからである。ポケモンを手持ちに連れていくのに6体までと決まっているそうで、それ以上だと専用のパソコンを使用しポケモンを預ける、家で待たせる、などといった対策をしているらしい。最も、ポケモン図鑑たるものを揃えるために沢山のポケモンを捕まえるトレーナーもいるおかげか、前者の対策方法が若干多いとの事。一方でギーマさんは、このように屋敷に置いて待たせている__頻繁にポケモンを捕まえはしないらしい__後者だった。

「ズルッグも勝手にボールから出てきちゃ駄目だろ?」

ポケモンと言えど、私たち人間と同じ命で、感情もある。ボールから勝手に飛び出してくる子が全く居ない、わけもないのである。

「るぐぅ…」
「いや!その、この子は全然悪くなくて!」

そう、これはズルッグの所為では無く、寧ろ私の不注意で起きたものだ。ギーマさんが手持ちをボールに収めてポケモンリーグたる場所へ出掛けたから、屋敷に私以外誰も居なくなるのだと思い込んでいたのが原因である。
明らかに落ち込んでいるズルッグに、悪気はないとギーマさんに慌てて説明をした後ズルッグへ視線を移して謝罪の言葉をかけた。

「驚かせてごめんね」
「ぐるぐー!」

ズルッグは元気な声で返事をかえしてくれた。まだ育ち盛りというものだろうか。あの時、遊んで欲しかったのかな、と記憶を振り返る。何せ、この子自ら私の手に頭を擦り寄せてきていたのだから。
それにしてもこの子、かわいい。ギーマさんのポケモン達はみんな見た目がかっこよくて、冷静な態度が印象だった為に、今目の前にいるズルッグの元気な性格は新鮮だった。そんな行動がかわいいズルッグを、私の事情によって怖がらせてしまったに違いないと、心の中で溜息をつく。

「ああ、この際だから紹介しておこうか」

ギーマさんはズルッグの頭を撫でた後席を立ち、近くに置かれているボールを手に取る。そして中央のボタンを中指で軽く押すと光を放って飛び出してくるポケモン。その工程を数回繰り返して、気付けば沢山のポケモンが、私が座るソファを囲むように並んでいたのである。

「わたしの愛するポケモン達だぜ」
「ひえっ」

つい、カップを持つ手に力が入る。

可愛いという感情より、ポケモン達による威圧への恐怖の方が勝った。


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