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思った以上に早く帰ってきた。

「は、…はじめまして、こんばんは」

玄関の扉を開ける。目の前に立っていたのは案の定ギーマさん。そして背後にはスタイルの良い髪がさらさらなお姉さんと、タキシードを着こなしている仮面のお兄さんが居た。ふたりはジョウト地方の四天王だそうで、成る程オーラが輝かしいのはそういうことかと納得する。ギーマさん含めイッシュ四天王の皆さんとはまた違った強さとカリスマ性が溢れている。そしてふたりに対して、ああなんて素朴な料理を作ってしまったのだろう、という後悔の波が押し寄せてくるのだった。

「あなたがヴィダちゃんね!はじめまして、あたくしはカリン」
「僕はイツキ。カリンと同じジョウト地方の四天王をしているんだ。よろしく」

お邪魔します。と、ギーマさんが玄関へ入った後そう言って動揺玄関へと足を踏み入れるカリンさんとイツキさんをリビングまで案内する。ぱたぱたぱたとスリッパの音が廊下に響き渡った。外出中に施設の従業員さんが部屋の掃除をしてくれる為、常に清潔で綺麗なので有り難い。

「なんだかいい匂いがするわね、バジルかしら」
「もしかしてご飯食べている途中とかだったのかな」

リビングまで案内した後にそれぞれ部屋、というよりも、匂いの感想を口にしていた。
隣にいるギーマさんの視線が突き刺さる。

「ふふ…、結局何か作ったんだろう?」
「…………ハイ」

どうやら彼は、私が食べるものを用意していたことは想定済みだったようだ。




「つまらないものですけど」

冷やしていた料理を三人分、小皿に取り分けてお盆に乗せる。忘れないように箸も添えて、どきどきしながらリビングで待つ三人のもとへ運んだ。
まさかバジルの香りでばれてしまうなんて全く想像していなかったけれど、振り返ってみれば私はバジルを包丁でみじん切りにしていた。部屋中に漂っていた香りに鼻も次第に馴染んでしまっていたのだろう。

「ミニトマトとモーモーチーズのマリネ、です」

後日行われる決勝トーナメントに向けての作戦会議の為にテーブルを囲んで座っていた三人に料理を配る。心配していたトマトの水分は出ていなかったのでとりあえず一安心だ。

「…あのさ、ギーマ」
「なんだい?」
「すごいお洒落な食べ物が僕たちの目の前に現れたんだが」

お洒落。イツキさんの言葉に耳を疑う。ただ切って混ぜただけの、しかもおつまみ料理だというのにここまで褒めてくれるとは思わず反社的にお礼を口にする。カリンさんに至っては特に、お出しした料理を無邪気な子供のように目をきらきらと輝かせながら見つめていた。

「とっても美味しそう……いえ、絶対美味しいに決まってるわ…!寧ろあたくしたちが食べてもいいの?」
「全然大丈夫です。三人の為に作ったものですから」
「あら、ありがとう。それじゃあいただくわね!」

カリンさんとイツキさんは互いに箸を持ち、器用に料理を摘んで口へと運んだ。私はギーマさんの隣に座り___詳しくいえば、隣に座れ、と彼から指示された___その姿にごくりと息を呑む。人によって味の好みは異なるのだから、誰しも食べて美味しいと感想を述べるとは限らないのだ。そんな、表情が強張っている私を横目で眺めているギーマさんがいたとは知らず。

イツキさんが先に、食べ物を胃へと飲み込んだ。

「これ、すごく美味しいよ…!」

そう言うや否や、再び料理を口へと運び咀嚼していく。彼の付けている仮面で目元は分からないけれど口角が上がっているので、本当に美味しかったんだな、と心の中で息を吐いたと同時に、イツキさんのモンスターボールから突然出てきたネイティオが鳴き声も上げずじっと料理と私を交互に見つめている。なんとなく訴えられている内容を察するに、わたしの分はないのか、という行動だろうか。料理を作って欲しいと様々なポケモンに近付かれたりしたときと同じ眼差しだったから。

「あ、あの、ごめん、ポケモン用のマリネは作って、ない…」

しかしながら私はポケモンブリーダーでもドクターでも、ましてや料理人ですらないので今直ぐにポケモン用の料理を作れる人間ではない。ごめんね今度君たちのご飯も作ってあげるから。顔の前で両手を合わせながらそう告げると、今度は真剣な面持ちで私の名を呼んだカリンさん。

「ねえ、ヴィダちゃん」

からり、箸を置く音。まずい、これは、まさか、彼女の舌には合わなかったのだそうに違いな

「あたくしの専属家政婦にならない?」

…くなんてなかった。美味しくないと反応されるかと思って覚悟していたというのに。私の両肩に手を置くカリンさんに体がぴくりと反応してしまう。

「え、え、えっ」
「悪いが既にわたしのものでね、他をあたってくれ」

言葉に詰まっている私の代わりに、口元に手を当てながら勝ち誇ったように答えるギーマさんはなんだか楽しそうである。が、口説き文句のような言葉を他人の目の前で堂々と使うのだけはやめてほしい、恥ずかしいすぎて頭が痛くなるから。


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