老若男女、十人十色。さまざまなバディーズがパシオ島に来客するのだから、その人達に合った宿泊施設も必然的に作られるものであり、皆それぞれ希望する宿泊施設を選ぶことができる。ひとりで参加する者も居れば、親同伴の者、夫婦、家族、友人、老人など、付き添いがいる中で参加する者もいる。
勿論、恋人同士でパシオへ足を運ぶのも、決して例外ではない。
「(見たことない優しい顔で電話してるわね)」
「(なんか、すごく楽しそうだな)」
ある夜の日。パシオを出るか悩んでいたギーマを止めてチームとして誘う事___最終的には運任せだったが___に成功したカリンと僕は、早速数日後の決勝トーナメント戦に向けて作戦会議を行うことになった。肝心の会議を何処で行うのか決める際に、お礼も兼ねてわたしの使用している部屋で行おうか、と言われ、彼の提案に素直に乗る事にしたのだが、
「(一体誰と話をしているんだ)」
彼の使用している施設のオーナーかと想像していたが、表情や声のトーンからして身内あたりだろう。
「ああ、すまないね。ヴィダは気にせずくつろいでいると良い。それじゃあまた」
意外にも、ものの数十秒で会話が終わり静かに電話を切る。彼曰く僕たちが部屋へお邪魔することに対して許可を貰えたそう。
「なになに、もしかしてそのヴィダって人、あなたの恋人とかかしら?」
「なっ…おい、カリン!違ったらどうするんだ」
「えーっ、だって気になるじゃない」
カリンの言う通り、正直なところ僕も彼が誰と話していたのか気になってはいた。が、チームになり早々、ずかずかとプライベートに干渉するのは少しばかり礼儀として失礼なのではないかと思って、心の中に閉まっておこうとしていたのに。彼女の一言で興味がふつふつと湧いてきてしまったじゃないかどうしてくれる。
「仮にもし彼女じゃなかったらどう…」
「ああ、そうだぜ」
「えっ」
「え…?」
ギーマの一言で、僕だけではなく、話を持ちかけていた張本人のカリンまでもが、大きく目を見開いた。波の音が聞こえないくらい思考が停止する。
嘘なんてついていないという眼で。当たり前だと言わんばかりの表情で。
えっいやほんとに?本当にいるの?
「わたしの愛しい恋人さ」
ギーマさんからは、ご飯は大丈夫、と言われたけれど、やはり何もないまま招くのは失礼かと思うし、宿泊施設とはいえ数時間、しかも夜遅くに訪問するとなれば、軽く胃に入るものくらいは用意したい。長期間滞在する皆様に、という太っ腹な島の管理人の下、宿泊施設で出される料理は実質無料という訳で、パシオに来てから食事は基本施設で提供してもらったものを、そして時折外食だった為に、ほぼ毎日材料を買って作らなくても良くなったのが利点。裏を返せば料理をする機会がめっぽう減ってしまったのが欠点である。それから、殆どの宿泊施設は部屋にキッチンスペースを設けているそうで、台所はあるけれど、最小限の道具とスペースしかないので基本手軽で簡単なものしか作れない。
「ミニトマト…チーズ……」
来客される方がおつまみで満足してくれるのかは分からないけれど、とりあえず作ろう。胸元あたりの高さの冷蔵庫から材料を取り出す。今から作る料理はコンロの火を使わないし、ほとんど混ぜるだけの工程なので簡単だ。あとは美味しい。
ミニトマトは房を取り軽く水洗い半分に、チーズは1センチ程度の角切りにする。ちなみにこのチーズはミルタンクのモーモーミルクを加工した食材らしく、栄養満点かつ高カロリーなのが特徴だという。おまけにバジルも細かくみじん切りにして、全ての具材をボウルの中へ。あとはオリーブオイルに、塩、胡椒で味付けをし軽く混ぜたあと、ラップをして冷蔵庫で冷やす。
終わってしまいました。
「………感覚で塩と胡椒振っちゃったけど大丈夫かな」
パシオへ来て、ギーマさん以外の人に料理を作ってあげたのは、お馴染みのイッシュの四天王の皆さんと、以前彼とチームを組んでいたクチナシさんしかいなかったから、途端に小さな緊張と不安が押し寄せてくる。ほんとうにこれで大丈夫だったのだろうか、と。
「おいしい、って、言ってくれますように」
とりあえず、漬け込みすぎるとトマトの水分が出てきてしまうので、そこだけ気をつければ問題はない、はず。