03



翌日、ギーマさんの言葉通り警察の人たちが私の元へ訪れた。警官特有の挨拶である敬礼をしながら紹介してくれたのは、薄い青緑の髪色をもつボーイッシュな印象の女性。名前はジュンサーさんという。ここまではまだ驚くまでには至らなかったのだが。

まさか国際警察というお偉いさんまで来るだなんて一体誰が思うのよ。

「そこに居る四天王さんと、君の治療を担当する先生から事情は聞かせてもらってな」

国際警察の一員、ハンサムと名乗る人は黄土色のトレンチコートを着こなしている。どうやら事前に話は伺っていたようで、私と記憶喪失の関係に引っ掛かるものがあるという。
心の中を覗き込まれているような目線に、例の記憶を知られたのではないのかと、じわりと背中から冷や汗が出た。

____やはり人の顔は見れない。

気分を紛らわすように、ちらりとギーマさんの方を向く。今思い返せば、この空気に助けを求めていたのかもしれない。

「してんのう、ってギーマさんの苗字とかですか?」
「ん?」
「ああー、嬢ちゃんそっから分かんねえ感じかあ」

私の発言に苦笑いを作るギーマさんに、頭を抱えるハンサムさんを見るに、どうやら私が思っていた四天王という疑問は違っていたようだ。




話は波のように、次々と流れてくる。
医師と警察の相談により私の身元調査を行う流れへ決めたそうで、今知る限りの情報___あの記憶以外は___をハンサムさんとジュンサーさんに伝えていく。といっても、本当に何も覚えておらず、使用する文字は異なるしこの世界の文字も読めないという事だけ、だけれど。

「人間やポケモンが記憶を失って、知らない街を彷徨っている中で保護された後に、身元調査を依頼するケースは無いこともないの」

ジュンサーさんはそう説明してくれた。
“無いこともない“。私からすれば、この世界が平和で同種他種ともに手を取り合い共存できている、という前向きな意見に聞こえる。滅多に無いのであれば、今までどのような経緯で被害者は記憶を失い保護されたのか。気になって質問をしてみれば、ジュンサーさん曰く、今までの被害者が受けた記憶喪失の原因は落石などの自然災害による脳震盪が圧倒的に多いそうで、他はポケモンや人に対して衝撃的な経験によるもの。
或いは、珍しいポケモンの影響による記憶の喪失、とも。

「しかし…難しいですね…。数週間も経過しているなら、流石に知人や家族から何かしらの連絡は来ると思うんですけど…」
「一人暮らしだった、てなら話は別だがなあ。それより、生き物に触れられないくらいの拒絶反応に記憶障害があるとなりゃあ、自然災害じゃねえのは確かだ」

正直、身元調査なんてしてほしくなんてないのに。寧ろどうでもいい。思い出したくなんてない。
今すぐここから逃げ出してしまいたい。

「身体の診断上、物理的な暴力の痕はなかった、てことは…」
「精神的暴力、という推測になりますね」

どうして一人の見ず知らずの___殺人鬼であろう私なんかに、ここまでの対応をしてくれるのだろう。なんだか居た堪れなくなって、けれどその場から動くこともできなくて、膝に掛けてあるコンフォーターをただ静かに握りしめることしか出来なかった。


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