追い込まれた。たかが女ひとりに。俺と三下どもで、近くに建てられた家の宿主の金品を頂いて、ついでに日頃溜めていた欲とストレスを吐き出してやろうかと、宿主と同じ家に住んでいた女を囲んでいただけなのに。数人、ましてや図体のでかい男が、見るからに細く、筋肉もついていなさそうな女に無残にもやられるだなんて、俺を含め、皆誰一人想像すらしなかったのだろうから。

「が…はッ、」

切り裂かれた箇所からどくどくと生温いものが吹き出して、震える手で傷を抑えても止まる気配すらなく、手の隙間から溢れてゆく。痛い。痛い痛い痛い。痛くて苦しくて上手く呼吸ができず、俺は不規則に息を吐き続けた。辺りを見渡せば、俺以外の仲間は皆命を経たれ、自身のそれで赤く染まりかえっている。あまりにも、あっけなく。
立つことすら叶わない俺は尻餅をついたまま、歯を食いしばり女を見上げ、睨む。
闇よりも暗い黒髪に、雪のような白い肌。そして、ぎょろり、力のない黒い瞳がこちらを向いて、瀕死にも関わらず俺はその黒に思わず捕らえられてしまう。

「ひ…っ」

否、目を奪われたと言い換えてもいい。女の瞳は、恐れるものなど何もないというような、失うものさえないというような、そんな眼差しだった。もはや、俺には恐怖と後悔の感情しかなかった。一方、俺を見下ろしたまま、女は何も言わず手に持っていた赤い刃を振り上げる。
止めろ、やめろ、やめろ、やめろやめろやめろ!

「化け物め…!」

目の前の恐怖と戦いながらなんとか絞り出した、抗いの言葉だった。

「…は、」

するとどうだ。女はぴたりと止まり、今まで黙り込んでいた声を初めて溢す。

「あははは」

笑いだしたのだ、女は。今まで張り詰めていた空気を壊すかのように、顔を綻ばせて、声を上げて、無垢な笑顔を浮かべて。
側から見れば、気味が悪いと思うのだろう。しかし、俺は少女のような笑みを浮かべ高く笑う真っ黒な女を、酷く美しい、と感じてしまったのだ。おかしなことだ。きっと、呼吸が浅はかで、酸素が頭に回らないからだ。

「あー、そうか、うん、そうだったんだね」

ふう、と女は息をついて、再び俺を捕らえた。女の顔はすっきりとした、曇りのない表情をしていて。一瞬、俺の心臓がどくりと大きく音を立て跳ね上がる。
見入ってしまったのだ。この化け物を。

「…ぁ」

そして、今度こそ女は刃を俺目掛けて降り下ろ_____





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