前回までのあらすじ。とある任務が終わりグランサイファーまで戻ろうとした帰り道、遠くでちいさなエルーンの女の子が何者かに手を引かれ無理矢理路地裏へと連れられる瞬間を見た私は、迷うことなく追いかけて少女の元へ。案の定、いかにも悪そうなゴロツキが数名いて、女の子は今にも泣き出しそうな顔をしていたので、これは恐らく人身売買を稼ぎとしている者達だと察し助けてあげようと愛刀に手を構え動き出したのだが、まさかの魔術つさを使いこなせる人達だったため、魔力が全く使えない私はあっけなく捕まって、粋がる連中に人身売買が行われる会場まで連れ出されることになったのだった。




飛び交う観客の声。小刻みに上がっていく私の金額。実は星晶獣と契約している凡人になかなかの金額を提案するのもどうかと思うが、司会者曰く、艶やかな黒髪と全てを引き込ませるような黒目が世間では珍しい、とのこと。確かにこの世界の人たちは色鮮やかだし、そもそも私が日本人だからという事もあるが、言い値で売ろうとしてそこまで大袈裟に発言を繰り出すのは良くないと思う。
そういえば、戦っている最中、女の子が全力で逃げていく後ろ姿を横目で確認したので____追っ手も私と戦う事しか眼中になかったし____、取り敢えずは助けられた、はず。女の子、無事に家族のもとまで帰れたのかな。そうであれば、私は十分満足である。

「(早く終わってほしい)」

商品として買われた後、どう行動しよう。予想以上に親切な買い手であれば、その人と暮らすのも悪くないが、流石に淫らな行為や奴隷の対象にされるのであればさっさと逃げてしまおう。そのままグランサイファーへ再び戻る手もあるけれど、空の世界は広いしまず団長の目的を阻めたくない。そもそも仲間でもない。ただ乗せてもらっているだけだし、私がグランサイファーを降りても損はな___ 

「1000万」

ひとりの人物が告げた金額によって、先程まで飛び交っていた観客の声が一斉に静まり返る。
一瞬、聞き逃しそうになった。1000万、より、酷く聴き覚えのあるウィスパーボイスの方だが。今もその声が鼓膜に響き続けていて頭から離れない。私は咄嗟に客席へと視線を動かして、声をあげた本人を確認する。

……ルシオさん?

「1000万、でよろしいですか」

あの真っ白い髪と小さな羽根、老若男女全てを惹きつける魅了。遠くからでもはっきりと分かる。あの人は紛れもなくルシオさんだ。
小刻みに増えていた金額が突然跳ね上がったのだから、この場にいる人全員が驚くのも仕方ない。一番後ろの席にルシオさんが座ってるため、観客は体ごと彼の方へ向けて見つめており、私の立つ舞台から少し離れたところで司会を務めていた人も驚いて、口が開いたままだ。
いや待て、そもそも彼はそんな大金を持っているのか。団長の稼いだお金で払おうとしているんじゃないか?
そして、彼の隣にもうひとり、金色の髪を持つ褐色の女の子が座っていた。まさか、

「……どうかしましたかシャレム」
「お前…たったそれだけの額でアイツを買うのか?」
「ご不満ですか」
「当たり前だ」
「そうですね…でしたらもう少し値段をあげましょう」

ああだこうだと言い争いながら、ルシオさんとシャレムさんにより事が進められていく。遂には、2人で私を買う金額は徐々に積み重なりまた桁がひとつ増えた。周りの観客は、彼らのペースに追いつけないのか、払えない額まで到達し諦めたのかは知らないが、横から口を出すことをせず、ただ終わりを見守っているようだった。若干、彼の魅了に見惚れている者も少なからずいるが。

「では司会の方、今私達が提案した金額で、あの方を買ってもよろしいですか」
「は、はい…ッ」
「………ぇ」

…まじかよ。
まさか購入相手が顔見知りの人だなんて、一体誰が予想できただろう。司会者は次の見せ物の用意をするため、私を舞台から退場させ、それからお手伝いさん、と呼ぶべきか定かではないが、その方に取引場まで案内されられる。それから、手錠と足枷を外すからじっとしていろ、と言われたので、お手伝いさんの言うことに従い、縛られていたものを外してもらった。やっと解放された、と私はひとつ息をこぼす。
お手伝いさんは、早く行けと呟いたが、用は無いと、そんな風に聞き取れた気がする。ええ、こちらもオークションに用は無いので、ありがたく帰らせていただきます。
ルシオさんとシャレムさんの所まで歩いて行くと、2人は既に取引場でお金を払い終えたらしい。…本当に持っていたのか、あんな大金を。

「×××!」
「シャレムさん、ルシオさんも」

2人は私の気配に気付いた様子で、特にシャレムさんは浮遊した状態でふわふわと私に近寄ってきた。

「何故お前は悠々としているんだ」
「何故と言われても」
「他のやつに買われる所だったんだぞ!」
「まあ仕方ないよなって」
「わたちと一緒に居たくないのか!?」
「どうしてそうなる」

シャレムさんは私の肩に手を置くや否や前後に激しく揺らし続けてくるので頭の中がぐらぐらして、ちょっと気持ち悪い。それを見たルシオさんは彼女の行動を止めると、先程まで手錠で縛られていた手首をひと撫でして、包み込むように手を絡めてきた。

「帰りましょう、×××」

帰る、今の彼らにとって帰るべき場所は、グランサイファーということなるのだろう。私は団長の騎空挺にお世話になっているものだから、帰る、と言われてもピンとこないけれど。
ルシオさんと同様にシャレムさんも私の空いている方の手を掴んで、離さないというように力強く握りしめている。
かくして、私は両隣にいる白と黒と並んでグランサイファーまで“帰る“ことになった。



おまけ
「ところでどうして私が人身売買されていること知ってたんです?」
「小さなエルーンの女の子に助けを求められまして」
「あ」
「誰を助けたいのか特徴を教えてもらったところ、真っ黒な髪と瞳を持つ綺麗な人、だと」
「お世辞はやめてください」
「なんだ、信じてないのか?本当にあの子供は言っていたぞ」






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