三者面談



「・・・ということで、一昨日この人が異世界トリップしてきました」
「なるほど・・・」

翌日、予定通り11時にやってきた三上に一通り説明するとなまえは一つため息をついた。
案の定三上は気難しげに眉を寄せ、机を隔てた目の前の椅子にどっかり座るリヴァイを見つめている。
リヴァイはリヴァイで、今朝なまえから「今日仕事の前にマネージャーさんが家に来るので、リヴァイさんのことを話します」と聞いていたにもかかわらず、目の前の三上を鋭く睨んでいた。

そんなリヴァイと三上をおろおろと見比べるなまえを見て少しだけ顔を綻ばせると、三上はなまえに向かって微笑んだ。

「信じるよ、なまえ」
「三上さん・・・!本当ですか!?」
「なまえのこと信頼してるもの」

微笑んだままサラッと言い切った三上になまえはじぃぃんと感動する。
三上はそんななまえの頭をよしよしと撫でるとリヴァイに向き直った。

「なまえから聞いているかもだけど、私がなまえのマネージャーの三上です、よろしく」
「リヴァイだ」

リヴァイはそれだけ言うとなまえが入れたコーヒーを啜った。

「同い年くらいだから呼び捨てにさせてもらうわね。・・・リヴァイ、なまえのことはどれだけ知ってる?」
「あ?」
「ちょ、三上さん!?」
「・・・なまえ、まさか言ってないの?」

三上の言葉に「う・・・」と俯くなまえ。
図星ってとこね、と三上は一つため息をついた。

「こいつが歌手をやっているのは知っている」
「・・・それだけ?」
「他に何かあるのか?」

リヴァイの問いに今度こそ三上は深いため息をつくと、おもむろに鞄から数枚のCD、DVDと写真集を取り出した。

「ただの歌手じゃないわ。今をときめく超人気アイドルよ。リリースするCD、DVDは全部殿堂入り、写真集は1日で完売、ドラマにもバラエティにもCMにも出て、今やこの子をテレビで見ない日はないくらいのね!!」
「み、三上さん・・・」

ばん、と三上が言い切ったところでなまえがおろおろと言葉を紡ぐ。
・・・リヴァイはというと、机の上のCDやDVDや写真集から目が反らせないでいた。

きらきらしている。
その一言がぴったりだと思った。

目の前にある商品に写っている少女は様々な表情をしていた。
明るく笑っていたり、控えめに微笑んでいたり、ちょっと色っぽく首を傾げていたり。
だが、全てに共通して、きらきらと輝く"何か"がこの少女にはあった。

「かわいいでしょう。普段のこの子からはあまり考えられない表情で驚いた?」

黙り込むリヴァイに三上は笑って言った。
その後、続けて「でも、普段でもなまえはきらきらしてるのよ。本人が出そうとしないだけで」と呟いた。
当の本人はというと、既に羞恥でキャパオーバーらしく、ぼんやりとリヴァイを見つめていた。
そんななまえを優しく見つめると、三上はふと思い出したようにリヴァイに向かって身を乗り出した。

「・・・ところで、あなた向こうの世界では兵士だったのよね?」
「だったらなんだ?」
「無理を承知で頼みたいのだけど、なまえのボディガードやってくれないかしら?」
「あ?」
「ちょ、三上さんなに言ってるんですか??」

訝しげにリヴァイは三上を見つめる。なまえもやっと我に返って三上に詰め寄った。
今までボディガードなんていなかったし、まずいる意味なんてないでしょう?と続けると、三上は真面目な顔で「実は・・・」と切り出した。

「日に日にどんどんCDとかテレビとか取材とかのオファーが増えているの。なまえは今本当にトップを独走している状態なのよ・・・それはもちろん嬉しいんだけどね、やっぱりそうするとなまえの変なファンも多くなるのよ」

三上の言葉にリヴァイは目を鋭くさせて続きを促す。

「変なファンっていうのはね、つまり、普通のファンと違ってなまえを本気で自分のものにしたいと思ってる人たちのことよ」

先週もしつこいストーカーに悩まされてたのよ、と三上が吐き捨てるように呟いた。
そんな三上を見て、なまえは先週のことを思い出したのだろう、俯いてふるふると震えた。

「・・・それで、本当は本職の人に頼むのが普通なんだけど、ほら、この子極度の人見知りでしょう。なかなか難しいのよ」

確かになまえの人見知りっぷりを考えるとボディガードをつとめるのにはリヴァイがピッタリの適任なのだ。
リヴァイはちらりと目の前の少女を見る。
不安そうに眉をよせているこの少女は小動物を連想させる。暴漢に襲われたらひとたまりもないだろう。

リヴァイは深く頷いた。

「いいだろう。引き受けよう」
「助かるわ」
「ただ、一つ条件がある」

リヴァイの言葉に、三上は怪訝な顔で「なにかしら?」と首を傾げた。

「俺になまえの負担にならないくらいの常識を教えろ」
「・・・ん?」
「リヴァイさん!?な、なにを・・・」

おっしゃってるんですか、というなまえの問いに、リヴァイは眉間に皺を寄せて答える。

「お前は極力目立ちたくないと言った。だが俺はこの世界のことをほとんど知らない。誰もが知っていて当然のこともだ。だから、知らないと目立つだろう」

リヴァイから飛び出た言葉に三上は思わず吹き出した。
三上のリヴァイに対しての第一印象はガラが悪い、その一言だった。
なまえが間違ってもこんなガラが悪い男とは合わないだろうと思っていたのだが。
それがどうだ。この男は見かけによらずなかなかどうして、案外思いやりのある人間なのかもしれない。・・・それとも、

(なまえ限定、だったりするのかもね・・・)

いいわ、と頷くと三上は笑ってみせた。
みょうじなまえという少女には不思議な力がある。
無意識のうちに人を惹きつける力――そういう魅力がこの少女にはあるとは知っていたが。
まさか異世界の人間まで虜にしてしまうとは・・・といささか感心してしまう三上だった。

「気を使わせてしまってすみません・・・」
「お前が気にすることじゃない」

ぐしぐしと不器用にそっぽを向きながらなまえの頭を撫でるリヴァイを見て微笑むと、三上はまるで他人事のように思った。

(ああ、私もこの子に惹かれてるうちの一人だ)
(ほんとうに、不思議な子・・・)




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