02.

 
 イルーナのその言葉を聞いて、ヒナタが小さくため息をついた。
 ヒナタはイルーナにとても弱い。どんだけ怒っていてもすぐに許してしまうのだ。
 ムッとしながらもできたてのパンを持ってきたカゴから出して食べやすい大きさに切る。
その間にイルーナは冷蔵庫の中から卵を二つ、ウインナーを四本取り出して沸いている鍋のお湯にウインナーを入れて、また違うコンロでフライパンを温めて卵を落とした。

 チュンチュン……

 と、小鳥が鳴きはじめる頃、二人の食事が始まり、また一日が始まる。
 それが毎日のイルーナにとって大事な日課なのだ。

「イル? 今日はどうするの?」
「んー、セラおばさんとレイアの様子を見に行くつもり。 なんだか体調もすぐれないみたいだし、レイアの症状がどうも引っかかるのよ……」
「例の病気?」
「えぇ、昨日もそれを調べていたら書斎で寝てしまったの」

 もぐもぐと食事をとりながら淡々と話し始めるとヒナタから『まったく……』という言葉とため息が漏れる。
 仕事や他人のことになると自分のことは顧みず突っ走ってしまうのがイルーナの癖でもあったからだ。
 優秀な医師だった両親の血を引き、彼女自身もまだ未熟ではあるが、それなりに優秀な医師となりつつあった。
 イルーナ自体はまだ若いが、ちゃんと町の有名な学校も卒業して医師の免許もとっていることから、村唯一の医師であるイルーナには村人たちからの信頼も厚い。
 ……正確には両親がそうだったように、イルーナも信頼されている……と言うのが正しいのかもしれないが。

「レイアそんなに体調悪いの?」
「ううん、まだ初期症状。 でも油断してると悪化するかもしれないし……怪我しないように見てないと。 あの子男の子たちと一緒に木登りとかするから……」
「確かに。 お父さんがセラもそうだったっていうから、血は争えないわね」
「ふふ、言わないの。 セラおばさんだって今は落ち着いてレイアっていう娘までいるのよ?」
「おちついてるぅ? あれで落ち着いてたら、ラーニャはどうなるのよ? 死体になっちゃう」

 ヒナタの言葉にくすくす笑う。
 ヒナタもまたイルーナにつられて笑った。
 長年離れてこそいたがよく親しんだ顔なじみたちだ。
 イルーナはそんなにぎやかな村が、村人たちが好きだった。

 
 
 



 



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