01.
……闇色の空が暁に染まる頃、少女は普段とは違う違和感を覚えて目を覚ました。
見渡せば見慣れた自室の光景が広がるはずが【今日も】目の前には見慣れた本の山が見える。
あぁ、またか……そうも思ったが、何もここで寝たからと言って怒る人もいないし……などと考えながら少女は幼馴染の顔を思い浮かべ、くすっと笑みをこぼした。
あの子なら怒るかもしれないな……等と考え直し静かに手を空に向け体を伸ばす。
それから座っていた椅子から立ち上がりそっと窓に向かっていった。
窓を開けて身震いをする。
もう春だというのにまだこの時間の空気は凍るように冷たい。
「……キレイ」
淡い光とともに舞うピンクの花びらが少女の目に映る。
サクラ…………。それがその花の名だった。
大昔、この付近に住んでいた先祖ともいえる人物がある島国から持ち帰ったもので、もう何年……いや何百年もその場所でこの時期になるとピンク色の花びらを咲き誇らせていた。
少女……イルーナはこの窓から見える景色が大好きだった。
幼い頃から見慣れたその景色は今は亡き両親との思い出も詰まった場所で、時々見ては思い出にふけるのが日課になっていたのだ。
村はずれの小さな家に住んでいるイルーナは家にいるときは大体勉強をしているか、物思いにふけるか、思い出に浸るぐらいか出来ない。
まぁ、それも夕方から日が昇って少し経つまでの間だけなのだが。
ガタンッ
ふと、イルーナのいる部屋の扉の奥から物音が聞こえた。
普通は一人暮らしの家だ、恐怖心を思うだろうが、もうそんな時間か……等と思いながら窓を閉めて静かに椅子にかかっていたストールをひっかけて部屋を後にした。
「おはよう、ヒナタ」
「イル! あんたまたっ!」
部屋を出るとキッチンで食材を出しながら朝食の支度をするためにやってきたサイドテールの少女に話しかける。
“ヒナタ”と呼ばれた少女は驚いた顔を浮かべながらイルーナを見て今度は不服そうに声を出した。
ヒナタはイルーナの幼馴染で、村のパン屋の娘だ。
パンの下準備が終わってからこの家に来てイルーナの朝食を作るのが日課になっている、そして唯一の激怒する人物だった。
「イル! あんだけ部屋で寝なさいって……」
「はいはい、わかってます、わかってます。 昨日は本を読んでたら寝てしまったのよ」
「それにしても……!」
「ヒナタ……私お腹すいちゃった、朝食一緒に作らない?」
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