01.
恐怖に歪んだ顔を浮かべて、男は取り乱し叫ぶ。
それでもその声は誰かに届くこともなく、闇に消えた。
力の抜けた足が崩れて尻餅をつくが、男はそれでも抵抗をするかのように、小刻みに震える手を左右に大きく降り続ける。
「やめ……やめてくれ……、た、頼む……見逃してく……」
「残念だが、これがお前の運命(さだめ)だ」
青年の低く冷たい声が響く。
震え、恐怖で歪む顔を浮かべた男の前で青年は表情ひとつ変えずにどこからともなく出した大きな鎌を構えた。
瞬間、静かに空を切り鎌を降り下ろすと目の前の男を切りつけた。
鈍い音をたてながら散乱する鮮明な紅(あか)。
コロコロと音をたてて青年の足元に転がった楕円が止まり、空を見る。
肉体と離れた“ソレ”を見て青年はソッとソレの周りを飛ぶ淡い蒼い光をコートの内ポケットから出した小さなビンに入れる。
そしてその蒼い光の入ったビンを冷たく見て、その視線を暗い空に向ける。
街灯も届かない路地裏では、暗い空に瞬く星がよく見えた。
そんな空を見上げて思い馳せる。
自分の存在価値、平等にあるべき生死、そして自分がやるべきこの仕事――……。
青年は悔しげに唇を噛み、目を瞑る。
「俺は……」
望んでなどいなかったその役割は、他人から拒絶され、関わることも許さない仕事。
他人(ひと)から理解もされず、恐怖するその仕事は青年を孤独にさせていた。
悲しく響く声がソレを物語る。
どうか、その呼び名を口にしないで、聞かないで――……、そう願いながらも他人(ひと)はお構いなしだった。
“死”と言う制裁を与える青年は、他人(ひと)から愛されたいと望む哀れな魂だ。
彼は“アロイス”と言う名を持った、“死神”だった――……。
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