くださいな


なまえは自室の寝台に腰かけて、小さな文卓に肘をつきながら眉根を寄せた。
そのなまえの前にはそわそわと肩を揺らす二つの影がいて、それがより一層なまえの皺を深くさせた。

「だーかーら! 大丈夫だって!」
「でもよぉ……」
「だって……」

筆を動かしながら何時もより大きく声を上げれば、シャルルカンとヤムライハはしゅんと肩を下げてなまえをみやった。
そんな二人に少し大げさに溜息を吐けば、二人はびくりと肩を震わせてしきりに謝罪を口にする。
これではまるで叱られている子供の様だと思いながら、ちらりと足元を見やった。
服の裾から覗く足首には白い包帯ががっしりと巻かれている。
動かすたびに僅かな痛みが走るが、それでも筋が傷ついている訳でもないし、骨にも異常もない。
唯の打ち身である。
この痛みの原因が、目の前の二人の喧嘩に巻き込まれ、ちょっとした不注意によってこけてしまった事なのだが、それは本当に己の不注意だと思っているので怪我に関しては二人に怒っていない。
どちらかと言うならば、「反省するなら喧嘩しないで」
「ごめんなさい、なまえ……」
「わりぃ……」
「だから私はもう良いから! お互いに謝る!」
「……」
「……」
「二人とも?」
「……悪かったよ!」
「こっちこそ悪かったわよ!」

お互いに謝る気があるのだろうか、と思いながら、なまえはそっと息を吐いた。
筆を置いて、紙のインクが乾いた事を確認すると、其れを丁寧に畳んでシャルに、傍に置かれた書簡をヤムライハに差し出す。

「シャル、これを伝達官官室に届けてきて。誰に渡しても良いから」
「おう!」
「ヤムは黒秤塔に行ってこれを戻してきて」
「解ったわ」
「そしたら二人とも仕事に戻って良いからね」
「……」
「……」
「昼休憩はとっくに終わってる筈だけど?」
「……終わったら、また薬を持ってくるわ」
「夕飯持ってきてやるよ」
「ありがとー。いってらしゃい」

渋々、と言った風に室を出た二人にひらひらと手を振った。
ぱたん、としまった扉を確認すると、座っていた寝台に倒れこんで包帯の巻かれた足をぼうっと見やる。
暫くゆっくりして早く治そう。そう思い、ごろりと寝がえりを打った。

「――なまえ!」
「……ん、ジャファ?」

不意に掛けられた声と、勢いよく開いた扉になまえが体を起こせば其処には少し息を切らせたジャーファルがいた。
どうしたのだろう、と首を傾げると、ジャーファルはすたすたとこちらに近づいて、なまえの足を手に取る。
急な事になまえは目を丸くして、足を見るジャーファルを茫然と見つめた。
が、はっと我に返ると、

「!じゃ、ジャファ?! どうしたの?」
「足を怪我したってシャルルカンから訊いたから……」
「仕事は?」
「少し遅い昼休憩なんです」
「そっか……ジャファ、足……」
「あ、すみません。――骨や筋に異常は?」

その言葉に首を左右に振ると、ジャーファルはほっとしたように息を吐いた。
そして良かった、と言ってなまえの髪を撫でる。

「大丈夫だよ、そんなに心配しないで」
「でも……」
「ジャファもシンも私を子供扱いしすぎ!」
「なまえはまだまだ子供です」
「もー……」

撫でられる手つきが決して色の含んだものでは無くて、それでも確かに感じる温かさに、そのくすぐったさになまえは身を捩る。
それが決して嫌な訳ではない。
嫌な訳がない、が、

「そんなんだから、何時まで経っても親離れ出来ないんだよー……」

怒った様な、拗ねた様な口調で、それでも内心に嬉しさを含みながらジャーファルに手を伸ばす。
引っ張って、自分の上に乗せる様な形でジャーファルを抱きしめた。
きゅうっとその胸に顔を埋めて、くすくすと笑い声が頭の上から聞こえる。

「しなくてもいいよ」

緩く撫でられて、そのまま抱き上げられれば、ちゃんと座り直す様にベットに置かれる。
ジャーファルはなまえの足もとに膝を付いて、

「早く治るおまじない」

と、包帯の巻かれた足に口づけを一つ。
小さい時、怪我をした時に今みたいにジャーファルやシンドバッドがしてくれたおまじない。
久しぶりのそれに擽ったそうに笑うと、

「もっと、」
「ん」

そうして、次は瞼、頬、鼻の頭、と落とされる唇に、じわじわと胸が温かくなる。
子供扱いは嫌だと謳いつつも、それを乞う自分がいるのが可笑しくて、まだ甘えさせてくれるジャーファルが愛しくて、なまえはお返しとばかりにジャーファルの手の平に口づけを落とした。
そのまま手を頬に滑らされて、するりと撫でられれば、

「くすぐったい」

そうして笑える事が、何よりも愛しいのだと。

もっとたくさんくださいな。
(そうして私はたくさんのアイを知って、沢山のアイを返すから)


牡丹様キリリク「マギシリーズで少し甘めのジャーファル」でした!

親子(家族)の関係性を崩さずに、ナチュラルにいちゃいちゃ……できてると良いのですが、どうでしょう?
これ位のスキンシップなら可ですよね、外国とかでなら!←

牡丹様、リクエストありがとうございました!
こんなの違う!等ありましたら遠慮なくどうぞ!

お持ち帰り等はリクエスト下さいました牡丹様のみ可です!
20120129