追いかけて 「さあどうぞ!」 太股のあたりを軽く叩きながら、ちょいちょいと手招きをするなまえにアリババは言葉を失った。 目を見開いて、どうしてこうなった、と記憶をたどる。 シャルルカンによる厳しすぎる修行から緑射塔に戻れば、丁度なまえとはち合わせたのが、大体一時間前。 そのまま夕食を一緒に取り、ゆるゆると穏やかな空気で会話をして、自室に戻る。 その時にアラジンやモルジアナとも話したいだろう、とアリババが自室に誘えば、彼女は嬉しそうに笑って頷いた。 これが大体三十分ほど前だったろうか。 ちなみに下心は――全くとは言わないが、それでも猫の額ほどしか――無い。 ソファに身を預け、二人が来るまでゆったりとした時間をすごしていた。 そして今。 あまりにゆったりとしすぎて経緯は覚えていないが、とりあえず彼女がアリババを膝枕する気満々なのは解る。 そこまで理解して、アリババは更に混乱した。 彼女が100%の善意でそういう行動に出ている事はよく解っている。 間違っても、アリババをからかおうだとか、少し遊んでやろうとか、そういう思惑は一切ないのだ。 現に、今も純粋に笑いながら、アリババの返事を待っている。 しかし、だからこそ、アリババにとっては問題なのだ。 彼女がどういう思考の果てにそう言う結論に行きついたのか、全く理解できない。 「え、どうした……」 「はい!最近アリババさんが剣術の稽古でお疲れだと聞いたので、何かお役に立てればと思いまして!」 「えっと……それで?」 「シャルルカン様に相談したら、膝枕でもしてやれと」 だからアリババさん、遠慮なくどうぞ! そう言って、再び膝を叩いたなまえに、思わず頭を抱えた。 ――あの人はなまえに何を吹きこんでいるんだ! 如何に尊敬している師であるシャルルカンだとしても、この時ばかりは胸中で盛大に悪態をついた。 そして目の前でこちらをにこにこと見ているなまえを見て、そっと目を逸らした。 なまえにはシンドリアに来てから何かと世話になっていた。 同い年であると言う事も有り、良い話し相手にもなれた。 陰鬱さがすっかり影を潜め、以前の様に笑えるようにもなったのも、彼女のおかげであると言っても言い過ぎではない。 アリババにとって――アラジンやモルジアナにとってもであろうが――なまえは大切な存在なのだ。 そんな彼女が、自身の心配をしてくれて、尚且つ膝枕までしてくれると言う。 本音を言ってしまえば、もの凄く甘えてしまいたい。 が、しかし、気恥ずかしさが先だってどうしても素直にその膝に頭を預けられずにいた。 それでも彼女の純粋な好意を無下にするわけにはいかない。 そんな板ばさみな思考で葛藤をしていれば、アリババさん、と裾を引かれる。 はっとしてそちらを見れば、不思議そうに首を傾げてこちらを伺っているなまえ。 何か言わなければと焦って口を開こうとするが、何と言って良いのか上手く言葉が出ない。 結局口を噤んだアリババに、なまえは眉をへにゃりと下げて、 「……嫌ですか?」 しょんぼりと肩を下げたなまえに、アリババは思わず、そんなわけない!と叫んだ。 「本当ですか……?私、あまり男の人がどういう事をすれば喜ぶのか解らなくて……シャルルカン様の言った事を鵜呑みにしてしまったんですが、もし迷惑でしたら……」 「いや、迷惑じゃない!迷惑じゃない、けど……」 「けど?」 きょとんと首を傾げたなまえに、アリババは困った様に眉を下げた。 そして、頬を赤らめながら、 「えっと……女の子に、膝枕とかして貰った事無いから……恥ずかしい、っていうか……しかもその相手がなまえだと余計だし……」 視線を逸らし、頬を掻いて言った。 顔やら手やらが熱い。 「――、……」 何にも反応の無いなまえに、しまったと思う。 勢いに任せて変な事を言ってしまった。 慌てて弁解しようと苦笑しながらなまえの顔を見る。 なまえは顔を伏せて、アリババからはその表情はよく見えない。 その様子に益々焦りを覚える。 何か、何か言わなければ――。 「……その、なんていうか、そもそも女の子自体あんまり話たこととか、無いし……いきなりは膝枕は、ハードルが高い……っていうか」 あはは、と乾いた笑いを零しながら、頭を掻く。 ぴくり、となまえの肩が震え、静かに唇が震えた。 「――私も、」 「は?」 「私も、男の人に膝枕なんて、初めてですよ」 「……え、」「……アリババさんのばか」 小さくぽつりと呟くように言うが、その言葉はしっかりとアリババの耳に届く。 それに言葉を返す前に、なまえは立ち上がって逃げる様に走り去った。 行動が早かったため、表情は見えなかったがその耳は真っ赤で、 「……はい?」 残されたアリババも、自身に溜まるばかりの熱をどうしていいか解らず、ただ、茫然となまえが出て行った扉を見ていた。 とりあえず追いかけて抱きしめて、それから、 (期待させた分の責任は、どうとって貰おうか。) リラ様からの8800ヒットキリリク「同い年で優しいヒロインとアリババ甘」でした! ちゃんと甘くなってますでしょうか……? 恋人手前、みたいな感じのこう、何か初々しい?空気を感じていただければ幸いです。 ……甘いと言うかほのぼの? 個人的にアリババ君の思春期な感じがだいすきです← リラ様リクエストありがとうございます! こんなの違う!などありましたら遠慮なくどうぞ!! お持ち帰り等はリクエストされましたリラ様のみ可です。 20111215 |