赤くなる


ひっそりと、そう、ひっそりと過ごしている筈だった。
地味すぎず、かと言って目立ちすぎず、どこにでもいそうなあまり印象に残らないタイプ。
シンドリアの宮の女官として勤め始めてからも、それは変わらない。
女官の中で一番若い私は周りの女官から可愛がっていただいてはいるが、見た目が特別良い訳でも無い。
同僚で仲の良い友人を作り、偶にその友人から更に友人を紹介して貰ったり。
私の出会いと言えば、其れ位で。
恐れ多くも王に最も近く仕える八人将の方々とお近づきになるなんて、考えられる筈も無かった。
いや、まあ、そりゃあ素敵だなぁとか銀髪綺麗だなぁとか仕事も出来て戦闘も出来て凄いなぁ、とかは思ったりするけれど!
でもあくまで思うだけで。
廊下ですれ違いざまに挨拶をするだけで十分、だと思っていたのだ。
な、の、に!

「甘いものはお好きですか?」
「あ、はい、好き……です」

其れは良かった、とにっこり笑うジャーファル様……何故?!
そして目の前に置かれた甘味とお茶……うん、とても美味しそうです。
……ではなくて!!

「あの、」
「はい?あ、砂糖いりますか?」
「あ、頂きます……」

何故、私とジャーファル様が向かい合って座っているのか!
いや別にそれが嫌という訳では無くて、何て言うか、立場的にも違和感ありまくりで落ち着かない……。
後恥ずかしくてまともに目が見れない。
とりあえず落ち着いて考えてみよう。
洗濯をしていたらいきなり他の女官(先輩)に有無を言わせずに引っ張られて、気が付けば食堂の椅子に座らされていた。
訳が解らなくてぼーっとしていたら目の前に盆を持ったジャーファル様が。
そしてあれよあれよと言う間に一緒にお茶をする流れに。
途中助けを求めて先輩を見ても、先輩は超良い笑顔で親指を立てて、「なまえ、今から休憩ね」と、全くもって意味の解らない宣告をして自分の仕事に戻って行ってしまった。
そして、今に至る、と。
……うはあ全く意味が解らない。
と、とりあえず……、

「あの!ジャーファル様」
「はい」
「私なにかしましたでしょうか……?」
「え?」
「こう言ってしまっては何なのですが、私如きがジャーファル様とお茶をご一緒するなんて……もしかして私が何かとんでも無い事をしでかしてしまったのではないでしょうか……」

寧ろそうとしか考えられないんですけどね……!
私がそう言えば、ジャーファル様は少しきょとんと首を傾げて、そして可笑しそうにくすくす笑った。

「な、何か可笑しな事言いましたか……?」
「ああ、いえ、そうでは無くて……すみません、貴女は何もしていませんよ」
「そうですか……なら良いのですが」
「したと言えばしましたが」
「え?!」
「まあ、それは良いじゃないですか。私がお茶に付き合って欲しいだけですから」
「は、はあ……」

良い、のだろうかこれは……。
まあ先方が良いと言っているし、良いんだろうけど……。
シンドリアは上下関係については割と寛大で良かった、様な。
とりあえず見つかっても特にお咎め無いだろうし。
まあいいや、とりあえずこの場を楽しもう、うん。
ジャーファル様とお茶なんて、それこそ今後出来るか解らないしね!

「あ、このお茶美味しいです」
「ああ、何だかシンが献上品として頂いた最高級品だそうですよ」
「へ〜……って、そんなの私が頂いて良いんですか?」
「良いんですよ、シンから私に回ってきた物ですし。それに、私が貴女と飲みたいと思ったんです」
「あ、ありがとうございます。えっと……お菓子も美味しいですね」
「ピスティがお勧めしてくれたんです。お口に合って何よりです」

にっこにっこと笑うジャーファル様に、私は内心でひたすら首を傾げる。
今更な疑問だが、そもそも私がジャーファル様と会話した事あっただろうか。
……私が彼の記憶に残っているかすら危うい。
いやでも口ぶりからは私の事知ってるみたいだし……私はもちろんジャーファル様の事知ってますけどね!
ていうかこの人さらっと口説き文句言っちゃうんだ……いやいやこれはあれだから、ジャーファル様のお心遣いだよ!
きっと私が緊張しない様に……うん、そうに違いない。
良い人だなぁ、ほんと。
そんな事を考えながらお茶を飲むと、ぱちりとジャーファル様と目が合った。

「あ、」
「すみません、いきなりこんな風に誘ってご迷惑でしたか?」
「いえ!とんでもない!ご一緒させて頂いて嬉しいです!」「私もご一緒出来て嬉しいです」
「……」
「?」
「あの、もしかして私が覚えていないだけなのかもしれませんが――ああ、それならば失礼な事極まりないのですが――」
「何でしょう」
「えっと……挨拶とかは抜きにして……お話、した事ありましたか?」

伺う様にそう問えば、ジャーファル様は目を丸くして、ああ、と頷いた。

「そうですね、そういえばこうして会話をするのは初めてですね」
「そ、そうですよね!」
「ですが、」

ジャーファル様が一旦言葉を区切って、真っ直ぐにこちらを見る。
その真摯な目に、思わず姿勢を正してしまう。
ジャーファル様の白くて綺麗な手が、私の手を握る。
そして彼はふっと笑うと、それこそとろけてしまいそうなほど優しい声で言った。

「なまえとこうして話したい、とは思っていました」
「え、」
「いつもちょこちょこと走り回っている所や、にこにこ笑っている所を見て、可愛らしい方だと思って」
「う、」
「ずっと、こうして二人で話してみたいと」

こ、この人は私をどうしたいのだろうか!
今まで地味に地味に過ごしてきた私には本当についていけない!
うわぁぁあ顔赤い熱い穴があったら入りたいぃぃぃ!
な、何だかぐらぐらしてきた……っ。

「なまえ?」
「は、わ……」
「え、ちょ!」

段々暗くなる視界の最後に映ったのは、目を大きく開いて慌てているジャーファル様だった。

赤くなる顔をどうか隠して!
(それでも目が覚めて、一番に貴方がいるといいな、なんて!)


5656ヒットちひろ様からのキリリクで「年下ヒロインとおせおせなジャーファル」でした!
結構がんがんアタックしてみてるジャーファルさんとちょっと鈍い感じの女の子でした!
展開が急すぎて……!

リクエストに添えていますでしょうか?
お気に召していただけたら幸いです!

ちひろ様、キリリクありがとうございました。
こんなの違う!等ありましたら遠慮なく申してくださいね!
本当にありがとうございました!

ちひろ様のみお持ち帰り可です。
20111111