灰になる前に、 シンドリアは基本的温暖な気候に恵まれ、寒さで震える事は殆どない。 とはいっても、季節によっては寒い日もある訳で。 期間は短いが、凍える様に寒い時期だってあるし、夜は海風によって冷えてしまう事は多々ある。 それは極度の冷え症のなまえにとってはとても辛い物であった。 指先は氷のようになって、寒い冷たい以前に感覚すらなくなってしまう。 じんじんと何だか指先に膜が張ってしまったような感覚には何時まで経っても慣れない。 擦り合わせたり袖の中に入れて何とか温度を上げようとするが、それも焼け石に水である。 動かせばよくなるだろうか、と思い書類に向かってみるが、紙に並べられた字は決して見られるものでは無かった。 「うー……」 指先の震えで上手く文字が書けないお陰で紙を無駄にしてしまった事に溜息を吐きながら、指先を何とか温めようとにぎにぎと動かす。 序に足先の方の感覚もおかしいが、そちらは今問題ないので放っておく。 寒くなるとどうにも動きにくくなるこの体が不便で不便で仕方がない。 周りはそれをよく知っているから、なまえが仕事を止めて自身を温めている時は何も言わずにいてくれる。 偶に暖かいお茶を入れてくれる女官もいるし、自分はとても恵まれていると感じていた。 それでもやはりなまえだけ仕事を止めるのは申し訳なくて、心苦しい。 ――幸いにして、今は残業で周りに誰もいないので周りの目など気にする必要などないが。 そんな風に考えながら手をこすり息をかけていれば、何とか感覚を取り戻してくる。 これなら暫く動きそうだ。 今日はそこまで酷くない。 そう思ってほっとしていると、不意に机に影が落ちた。 それと同時に、 「大丈夫ですか?」 「わ、」 ぴとっとほっぺに暖かい感触。 吃驚して振り返れば、上司でもあるジャーファルが湯気の立つ杯を手に立っていた。 先程頬に押し当てられたのはこれらしい。 もう自室に戻って休んでいるとばかり思っていたので、目を丸くして彼を見れば、杯を卓に置いてなまえの髪を撫でた。 「随分冷えていましたから、つらいんじゃないかと思って」 するりと頬に手を滑らせて、その冷たさに苦笑するとなまえの手に杯を握らせた。 中身は生姜湯の様だった。 「何時も飲んでいたでしょう?」 「!」 そんな細かいところまで見ているのか、と目を瞬かせると、ジャーファルは苦笑して「冷めますよ」と言った。 若干恐縮しながらも口を付ければ、じわりとそこから熱がひろがる。 内からの熱が体を解して、ぽかぽかと暖かくなってきた。 「美味しいです」 素直にそう言えば、それは良かった、と何時にもまして柔らかく笑んだ。 こういう所が部下に慕われる所以何だろうな、と思いながら杯に残った生姜湯を飲みほす。 御馳走様でした、と頭を下げれば、彼は柔らかく微笑んでそっとなまえの手を取った。 優しく、流れる様な動作でその手を包む。 ジャーファルの熱が、(大分暖かくはなった)低いなまえの体温と混ざって溶けていく。 「少しはましになりそうですか?」 「あ、温かい、です……」 「それは良かった」 「わざわざありがとうございます……えっと、……」 ありがとうございます、と言って手を抜き取ろうとする。 が、ぐっと少し強い力で握られてそれもかなわなかった。 眉を下げて、困惑気味にジャーファルを見れば、 「まだ冷たいですね」 そう言って、ジャーファルはその手を持ち上げると息を掛けて自身の手と擦り合わせた。 そこまでする必要はないのに、と思いつつも彼はそう言う人なのだろう。 優しい優しい、上司なのである。 だから部下を気にするのは当然何だろう。 なまえはそう思って、その優しさに素直に甘える。 ゆっくりと両手をこすって、内から外から、どんどんと体温があがって行く。 これならすぐ仕事が終わりそうです、何て言えば、ジャーファルはそれは良かった、と笑う。 それからふっと瞼を伏せて、なまえの手を更に強く握り締めた。 「あ、え、……ジャーファルさ、」 「誰にでもする、何て思わないで下さいね」 「え、」 不意に、そんな言葉を投げかけられて、間抜けな声を上げる。 それにジャーファルは、溜息を吐くと、 「部下だから、こんな事するんだと思ってますよね」 「だって、」 「なまえだから、するんですよ」 そんな事言って、真剣な目でこちらを見るから。 握られた手が熱い。 どくんどくんと心臓が大きく波打って、手からそれが伝わるんじゃないかって位で。 ジャーファルの言葉が、耳に触れる声が、なまえを温めて、熱くする。 「……勘違いしちゃいますよ」 眉を下げてそう言えば、彼はたった一言、 「勘違いじゃありませんよ」 そう言って、すっかり暖かくなった手に落とされた口づけを一つ。 もう、部下だとか上司だとか言ってる場合じゃないらしい。 この熱をどうしてくれようか。 (燃えて灰になる位に熱くなるのです。だから、) (その前にすくいあげてください。) 結様リクエスト「ジャーファルと文官敬語ヒロインで甘」でした! あんまり敬語ヒロイン生かせてないですね……; とりあえずジャーファルに手をぎゅっぎゅってさせたかった。 にぎにぎしてほしかったので……甘いのかなこれ……。 ところで個人的に耳かきと手を触る(爪を整えたりマニキュア塗ったり)シチュだと断然後者が好きですが、どうなんでしょう……そういう趣味の現れですね、まさに。 結様リクエストありがとうございます! こんなの違う!などありましたら遠慮なくどうぞ!! お持ち帰り等はリクエストされました結様のみ可です。 20111011 |